67話 田中トウシの連絡先。
67話 田中トウシの連絡先。
自宅からそう遠くない場所に、その塾はある。名前は『月明かり』。
月謝が死ぬほど安く、それなのに入塾テストが異常なほどの難関であるため生徒数が極端に少ないという、どこからどう見ても『経営する気ゼロ』なストロングスタイル極まりない、謎多き塾。
――センは、その塾の建物内に、
ズカズカと上がっていき、
「月原さん、いるぅ? すんませーん。おーい」
と、軽やかなリズムで、
この塾唯一の講師にして塾長の『月原法蓮』を呼ぶ。
すると、数秒で、
奥の方から、軽くバタバタッとする音がして、
50代ぐらいのデブで眼鏡のオッサンが出てきて、
「あれ……久しぶりだな、閃。どうした?」
センの顔を見ると、月原は、そう言ってから、
ニタリと、人の悪そうな顔で笑い、
「また入塾したくなったか? だとしたら、また入塾テストを受けてもらうぞ。まずは、近くの小学校のグラウンド100周」
「……しねぇよ」
と、ダルそうにそう言ってから、
「田中トウシのこと、覚えているよな?」
「ああ、もちろん。あいつは別格だったからな。なんで、塾に通ってんだって不思議に思ったくらい。……それがどうした?」
「あいつの連絡先、教えてくれ」
「交換していなかったのか? 塾生の中だと、お前が、あいつと、一番仲良かったように見えたが」
「そんな節穴で、よく講師なんかやれてんな。ヘドが出るぜ」
「いやいや、何を言っている。私の人を見る目は、そこそこ確かだぞ」
などとそう言いながら、
月原は、自分のスマホの連絡先を調べて、
「ほら、これが田中の携帯番号だ。個人情報だから、勝手に教えるのは、どうかと思うが……まあ、お前ならいいだろう。あいつと仲良かったしな」
「だから、仲良くねぇっつってんだろ。言っておくけど、法律なかったら、俺、あいつ、殺してるから」
などと、そう言いながら、
センは、トウシに電話する。
呼び出し音が何度か鳴ったのちに、
留守番電話サービスに切り替わった。
センは、軽くイラっとしながら、
「出ろや、ボケ。かす……殺すぞ」
と、吐き捨てつつ、
「塾で一緒だった閃壱番だ。天才のお前はアホな俺のことなんて覚えてないだろうが、『お前の人生にも関わる大事な話』があるから、すぐに折り返せ」
と、それだけ留守電に残し、ブチ切りする。
「月原さん、あいつの住所とか、知ってる?」
「ウチに入塾する際に、住所を記載する必要は一切ないから、知らないな……」
「……ちっ、使えねぇ……」
「そういうのは、口に出さず、心の中で思っておきなさい。めっ」
叱られつつも、
センは、もう一度だけ、電話をかけてみて、
しっかり繋がらないのを確認すると、
月原に、
「……あいつが進学したのって、もちろん、アカコーだよな?」
と声をかけると、
月原は、小さくうなずいて、
「もちろん。あいつほどの天才ともなれば、アカコーでも不足しているが、この近辺だと、アカコーがダントツだからな。……少なくとも、あのレベルの天才が、東高や西高みたいな、『勉強しなくても、誰でも入れるようなカス高校』に行くことはない」
「そういうのは、口に出さず、心の中で思っておきなさい。めっ」




