66話 月明かり。
66話 月明かり。
「……ビビらせてくれるじゃねぇか。言っておくが、今の俺の怯え方はハンパじゃないぜ。かわいい女子の前だから、どうにか、意地はって、泣いてないだけで、もし、ここにいるのが俺一人だったら、とっくの昔にションベンを垂らし終えていて、ワンワンと、生まれたての赤子みたいに泣いていた」
と、素直な感想を口にしつつ、
心の中で、ボソっと、
(……感覚で分かる。ウチの毘沙門天は、コスと、ファロールの力を取り込んで、ほんのり強くなっている。それは間違いない……が、あくまでも、ほんのり強くなっただけ。こんな微強化したぐらいじゃ、アウターゴッド級をどうにかできるとは思えねぇ……)
絶望的な未来を想いながら、
夜が静かにふけていく。
★
――翌日の朝、
不安で眠れなかったので、めちゃくちゃ睡眠不足のセン。
重たい体をなんとかたたき起こして、学校に向かう。
すると、教室で異常事態が起きていた。
「……おいおい……ついに、俺と輝木だけになっちゃったよ……」
ついに、反町までいなくなり、
教室には、センと輝木だけに。
教室に入ってきたセンを確認するや否や、
輝木が、センに近づいて、
「……すごい状況ですよねぇ」
と、呑気に教室を見渡しながら言う彼女に、
センは、
「流石に、もう、こうなったら、学級閉鎖だろ。……昨日の段階ですべきだったが……」
そう言いながら、センは、くるりと、教室に背を向けて、
「今日はサボろう。……話があるから、ついてきてくれ、輝木」
★
一緒に学校を出て、
近所の公園につくと、
テキトーなベンチに、並んで腰掛けて、
「今夜、ウムルよりも強いアウターゴッドが出てくるらしいが……心の準備は出来ているか?」
「準備が出来ているとは言い切れませんねぇ。とにかく、あなたと一緒に頑張るだけですぅ。死にたくありませんしぃ、死なせたくありませんからぁ」
「同意見だぜ」
と、そんな風に返事をしつつ、
空を眺めて、
「……んー」
と、少し悩んでから、
「……できることは全部やっておくか……」
そうつぶやくと、
「輝木……夜まで、『自由に変身できるように練習』をしておいてくれ。何が練習になるか知らんけど……とにかく頑張ってみてくれ」
「了解ですぅ。それで……あなたは何をするつもりなんですかぁ?」
「俺が知っている人間の中で、『もっとも頭いいやつ』に相談してくる」
「センイチバン、あなた、友達いたんですかぁ?」
「俺に友達はいない。単なる知り合いだ。昔、塾で一緒だったやつ」
そう言いながら、
センは、中学時代に通っていた塾へと向かった。
★
自宅からそう遠くない場所に、その塾はある。
名前は『月明かり』。
月謝が死ぬほど安く、それなのに入塾テストが異常なほどの難関であるため生徒数が極端に少ないという、どこからどう見ても『経営する気ゼロ』なストロングスタイル極まりない、謎多き塾。
木造住宅の二階建て。
見た目は普通の一軒家。
軒先には、『月明かり』と書かれた小さくて汚い看板が一つ。




