57話 俺は、決して頼りになる男ではないが、しかし、現状だと、俺以外にワラがないからなぁ。
57話 俺は、決して頼りになる男ではないが、しかし、現状だと、俺以外にワラがないからなぁ。
「ここ最近、自分の病気に甘えていたのも事実。病気だからって何をしてもいいってわけじゃないよな。ああ。お前が怒るのも無理はない。『状況が状況なんだから、もっとまじめにやれよ』っていう、お前のメッセージは、骨身にしみた。今後は、なるべく、自分の病気を……抑えられないかもしれないが、なるべく、抑え込む方向性で思案していきたいと考えている」
冷や汗を浮かべながら、トンチンカンなことを言っているセンを見て、
輝木の中から、毒気みたいなものがシュ~と抜けていった。
『パニックになった時、自分よりパニックになっている人を見た時、ふっと冷静になる』……みたいな感じが、心境的には近い。
自分でもどうしたらいいか、何を言ったらいいか分からなくなっていた輝木だったが、
「……その方がいいと思いますよぉ」
と、当たり障りのない返答だけをして、
自分の席へと帰っていった。
輝木が自分の席についてから、数秒たったところで、
反町も、おそる、おそる、自分の席につき、
隣のセンに、
「閃……お前、もう、二度と、ふざけるなよ。輝木さんがキレたら大変だからな」
「保証はできないが……なるべく善処する」
★
結局、その日は、3人しかいないクラスで授業が進むことになった。
普通なら、ここまでやばい状態だと、臨時休業処置等がとられそうなものだが、当然のように、授業は進む。
――そして、昼休み。
センは、屋上で、輝木と一緒にめしを食っていた。
一人で食べようとするセンに、輝木が、無理やりついてきた形。
昼食を食べながら、輝木が、
「センイチバン、あなたのスマホ……朝から繋がらないんですけどぉ、もしかして、電源を切っているのですかぁ?」
「ああ。巨乳JKキャバ嬢からの営業メールがウザくてな」
その発言に対し、
輝木が、また、スゥっと機嫌を落とした。
彼女の気配の変化を、敏感に察知したセンは、
「いや、金戸ウルア先輩な」
と、瞬時に言い直す。
チョケているのを怒られている……と勘違いしているがゆえの言い直し。
「昨日、あれだけ、怖い目にあったから、色々不安になってメンヘラ化してんだと思う。気持ちは分からんでもない。俺も、やべぇ状況に陥ったら、頼りになるやつにすがりつきたくなるから。……俺は、決して頼りになる男ではないが、しかし、現状だと、俺以外にワラがないからなぁ」
と、なるべく、ファントム要素を消して、
普通に話そうとするセン。
ただ、問題なのは、
ファントムトークか否かではなく、
金戸の話をしているか否かなので、
輝木の中での機嫌の急降下は留まる事を知らない。
ズゥーンっと、けだるく、重く、硬質になっていく、輝木のオーラ。
彼女が、なぜ、そうなってしまうのか分からないセンは、
「俺、今、変なこと言った? 個人的には、おふざけゼロだったんだけど、どこか気に食わなかった?」
と、おそるおそるたずねていく。




