50話 『悪党感だけではなく、小悪党感もあった方が、悪としての総量が増す』というのが、蝉原なりの悪党論。
50話 『悪党感だけではなく、小悪党感もあった方が、悪としての総量が増す』というのが、蝉原なりの悪党論。
(ついには、『いい女』だけではなく、『クズ女』相手でも……何も感じなくなったか……ガキのころは、相手がゴミだと、多少は興奮できたものだが……)
などと、心の中でつぶやきつつ、軽くため息をついた蝉原。
『このクズをどうやって殺してやろうか』と考えながら抱く行為に対し、昔は、それなりに欲情できた。だが、今は『無』だった。
血液をコントロールすることができるので、勃起する事はできたが、性的には一切興奮していない。
ケバい美女を抱いている間、蝉原の心は、ずっと、『穏やかな田園風景を眺めている時』ぐらい、静かで、無音で、無味で……
(……『幼稚な醜さ』を失っていく……『悪辣な穢れ』が薄れている……こんなザマで、俺は俺であると言えるのか……)
自分自身の心奥に根付いているはずの『小悪党感』が消えかかっている事気づいて動揺する蝉原。
悪党感や、威圧感に関しては日に日に増しているのだが、『安い醜さ』がかすれてきている。
『悪党感だけではなく、小悪党感もあった方が、悪としての総量が増す』というのが、蝉原なりの悪党論。
この機微は、たとえるなら、
――『日々数百億うごかし、数万単位の社員の人生に責任を持っている大企業の社長』が、『カブトムシに夢中になっていた時のような少年心』を『忘れたくない』……と考えるのに、少し似ている。
『幼さ』・『無邪気さ』は、
完全に無くしてしまうには惜しい手荷物。
……そんな蝉原のタメ息に反応した、
ベッドの上のケバい美女が、
蝉原に、
「……こんなに、つまらなそうに抱かれたのは初めてだわ。あなた、もしかしてゲイ?」
「もし、そうだったら……あるいは、少しは楽だったかもしれない。……いや、どうだろうな……」
「……は? 何言ってんの?」
「さあ、何を言っているんだろうね」
と、軽く鼻で笑いつつ、
蝉原は、高級そうなソファーに腰かけ、
彼女の方に視線を向けて、
「一つ、質問いいかい?」
「別にいいけど」
「君は、これまで、3人の旦那を亡くしているわけだけれど……全部、君が殺したのかい?」
「ふふ……みんな、同じ質問ばっかり。お金持ちと結婚するとやっかみが多くて困るわ。ちなみに、あなたは、どう思う?」
「二人目以外は殺したんじゃないかい?」
「……」
「二人目の旦那は……普通に伴侶にするつもりで結婚して……というか、その二人目の男と結婚するために、最初の旦那を殺した感じかな」
「……」
「もっといえば、最初から、二人目の旦那……ここでは、B男と呼んでおくけど……君は、B男と快適な結婚生活を送るために、一人目の旦那……資産家のジジイ『A男』を騙して結婚した。殺して、遺産を奪うための……ビジネスとしての婚姻」
「だましてはいないわ。向こうが求婚してきただけ。それで死んだだけよ」
「俺の前で嘘はつかないでいいよ。分かっているだろ?」




