33話 しどろもどろ。
33話 しどろもどろ。
「……どわぁ……いらねぇ……この状況で、新人、いらねぇ……めちゃくちゃ足手まとい……ただのお荷物……」
頭を抱えて深いため息をついていると、
そこで、空にビビっと亀裂が入った。
そして、その亀裂から、フワっと、人が落ちて来る。
人が落ちて来るのを見たセンは、
反射的に、義務感強めに、
「親方! 空から女の子が!」
と、新鮮なテンションで叫ぶセンの手の中で、
蝉原デスガンが、
「もう、呑気にボケをかましていられる余裕はないと思うけれど、君はゆるぎないね。尊敬するよ。あと、どうでもいいけれど、今回は本当に女の子だね」
落ちてきたのは、絶世級の美女。
センが、この前、蝉原の店で出会った女性。
金戸ウルア。
ウルアは、前回の百目鬼や高橋同様、意識を持ったうえで落ちてきた。
ゆえに、百目鬼たち同様『何が何だか分からない』という顔で、きょろきょろと周囲を見渡している。
ウルアは、センの顔を見ると、
『外国で顔見知りに出会った時』のような反応を示しつつ、
センに近づいてきて、
「……ぁ、あの……閃壱番さん……ですよね? こ、この前、お店で会った……」
と、そう声をかけてきた。
「ああ、まあ、そうなんだが……その方向性の話は、ここでは、ちょっとやめておこうか」
と、軽くしどろもどろになりながら答える。
すると、センの隣にいる輝木が、
ウルアを『殺人鬼を惨殺していく勢いの目』で睨みつつ、
センに、
「お店というのは、どこのお店ですかぁ? コンビニとかですかぁ?」
ただならぬ寒気を感じたセンは、
表情を固定させたまま、
声のトーンを変えないよう繊細な注意を払いつつ、
「ま、まあ、そういう方向性のあれだ。いわゆる、極めて健全なチェーン店系のアレだ。つまり、何も問題はないということだ。わかるな、輝木」
言い訳などする必要性はない……と理性で理解はしているものの、
しかし、なぜか、センは、輝木に対して、
しどろもどろに言い訳せずにはいられなかった。
――魂が叫んでいるのだ。
輝木に対して、あの店のことを正直に話すのは、あまりにも悪手である、と。
なぜかは分からない。
分からないが……魂が叫んでいるのだから、呼応するしかない。
「……」
輝木の殺人鬼のような目が、
『普段の数倍強固な深淵を覗いているような目』に強化されている。
センは、グっと奥歯をかみしめてから、
彼女に負けないぐらい『強い眼力』をあてて、
「なんだ、その目は。そんな、断罪するような目を向けられる謂れはないぞ」
と、ワイルドな対応をしめすが、
輝木はひるまない。
むしろ、より深淵を刻むような目で、
「……」
口以上に雄弁な瞳が疑念を叫ぶ。
……あまりにも強い目を向けられたセンは、
そこで、話題の角度を変えるべく、
ウルアに、
「て、ていうか……あんた、高校生だったのか? それ、赤高の制服だろ? 俺、赤高の制服にだけは詳しいんだ。いわゆる一つの劣等感ってやつだな。決して変態的な意味ではないぞ。まあ、別に変態的な意味でとらえてもらっても何ら困りはしないけどな。俺が特異的な変態であることは事実だから」




