23話 毘沙門天で、自己治癒能力を限界まで高めているから……もうしばらくしたら、普通に治る。……俺の毘沙門天は、親方のゲンコツより硬いんだ。
23話 毘沙門天で、自己治癒能力を限界まで高めているから……もうしばらくしたら、普通に治る。……俺の毘沙門天は、親方のゲンコツより硬いんだ。
「約束……神化……っ」
変身して、魔法でも使って、センを治そうと考える輝木。
しかし、
(……できない……というか、そもそもやり方が分からない……)
体に力を入れてみたり、
脳内で叫んでみたり、実際に叫んでみたり、
色々と手をためしてみたが、
全く変身できそうになかった。
――だとすれば、もはや、残った手段は、
「びょ、病院に……」
バキバキに軋む体にムチを打って、
センを病院に連れて行こうとする輝木。
と、そこで、
「…………いらねぇ……」
センが目を覚まして、
「毘沙門天で、自己治癒能力を限界まで高めているから……もうしばらくしたら、普通に治る。……俺の毘沙門天は、親方のゲンコツより硬いんだ……」
と、ちょっと何言っているか分からない寝言を垂れ流すセン。
その様子を尻目に、
久剣が普通に呆れた顔で、
「……この寝言は、意識が混濁しているから? それとも、いつもの病気? ……こういう時、判断に困るから、出来れば、極限状態の戦闘中だけじゃなく、普段も、まともにカッコイイ男でいて欲しいんだけど……」
と、文句を垂れている久剣をシカトして、
輝木が、センに両手をあてる。
不可解な輝木の行動に、
センが、
「……なにしてんの?」
と、尋ねると、
「手当てですぅ。……触れるだけでも、心身の苦痛が少しは和らぐと……聞いたことがありますからぁ」
「いらねぇ。触れるだけでも脳内ホルモンが分泌されるって話は、俺もどっかで聞いたことがあるが、このレベルの傷に効果があるとは思えねぇし、そもそも、毘沙門天のサポートだけでどうにかなる。というわけで、触るな。エッチ、変態、痴漢、蝉原」
と、いつものノリで、輝木の献身を拒絶していく。
ここに関しては、何か御大層で高潔な理屈があるわけではなく、単純に、思春期男子が暴走しているだけ。
センエースという概念に刻まれた特筆の一つ。
ガチで、ちゃんと、厨二で、思春期が永遠に終わらないモンスターサイコボッチ童貞。
……輝木は、そんなセンの『複雑機構な心』をシカトして、
手当てを続ける。
すると、だんだん、輝木の中に内包されているオーラと魔力が、
触れている手を介して、センに注がれていく。
「え、なんか……普通に回復速度が上がったんだけど……なにした?」
「約束神化を経験した影響だと思いますけどぉ……少しだけ……自分の中にあるエネルギーの使い方が……分かった気が……しなくもないんですぅ。変身はできないようですが、ちょっとぐらいなら……なんとか……みたいな……感じですねぇ」
現状、輝木は、変身することはできないし、
魔法のアイテムなしで『魔力やオーラを自在に操ること』もできない。
ただ、ほんの少しだけ……『想いを現象に変える』ことが出来た。
明確な奇跡。
けれど、確定事項でもある。
彼女の深層に眠る因子の運命。




