8話 『気持ち悪さ』という点において、貴様の右に出る者はそうそういないだろう。アウターゴッドである、このウムルDのSAN値を削ってみせるとは……
8話 『気持ち悪さ』という点において、貴様の右に出る者はそうそういないだろう。アウターゴッドである、このウムルDのSAN値を削ってみせるとは……
「集中力を増大させる領域……と言ったところか。この状況で、そんなものを展開して、いったい、何になるという?」
そう問われたセンは、ツーっと、鼻血を垂れ流しながら、
「……知らんよ……何になるかなんて……アホの俺に分かることなんて、何もねぇ……」
センは、服の袖で、鼻血を拭きながら、
「けど、毘沙門天が、全力で、俺のサポートをしてくれているってことだけは……なんとなくわかる。その毘沙門天が、展開させた領域なんだから……多分、役に立つんだろうぜ。知らんけど」
そう言ってから、その場で二度ほどジャンプして、
体の芯を整え直す。
カカトから脳天まで、軽い跳躍の振動で震わせてから、
グっと両の拳を握りしめ、スゥっと、膝を曲げて、腰を落とす。
静かな臨戦態勢。
体と心が一つになっていく。
雑念が消えていく。
「すぅ……はぁ……」
呼吸だけを意識の全部に置き換える。
マインドフルネス。
自分と世界が一体化していく。
ギュンギュンに加速していた脳が……回転速度だけはそのまま、
水風呂にでも浸からせたみたいに、シンと冷たくなっていく。
空間と調和していくセンを尻目に、
ウムルDは、
「存在値ゴミ同然の分際で……ずいぶんと、気味の悪いオーラを放つじゃないか。歪で、排他的で、退廃的な……禍々しい気配。もちろん、貴様ごときが放つ波動で、恐怖を感じたりはしないわけだが……しかし、その気色の悪さに対して、吐き気のようなものは感じている。『集合体恐怖症が、ハチノスを見た時のような』……とでも例えれば、多少は、私の不快感が伝わるかな? ……『気持ち悪さ』という点において、貴様の右に出る者はそうそういないだろう。アウターゴッドである、このウムルDのSAN値を削ってみせるとは……くく……なかなかの異常性だ。その点だけは、本心で認めてやる」
そういいながら、
ウムルDは、両手にオーラをためていく。
「もう少しぐらいは、遊んでやろうかと思っていたが……やめだ。本当なら、『後ろの女を順番に殺し、最後に残った貴様を、しばらく生かしてから……』などと、貴様をオモチャにする遊びも、色々考えていたんだが……気分が悪いから、まとめて殺す」
キィイイインっと、魔力とオーラが高まっていく音が、
センの耳をつく。
その音に抱いた不快感の分だけ、
センの集中力が上がっていく。
常軌を逸したメンタルから繰り出される、人外の集中力。
剣翼のサポートもあって、次元違いに研ぎ澄まされていく。
「すぅ……はぁ……」
己の呼吸だけで世界の色を構築していく。
運命の角度が、少しだけ見えた気がした。
多分、気のせい……
されど、気のせい……
命の循環が視認できた気がする。
それも、気のせい……
しかして、気のせい……
ウムルDは、クワっと、両眼を開き、
「跡形も残さず、消えてなくなれ……異次元砲」




