102話 どれも、たいしたことはないが……強いて言うならば……貴様が、この中で、もっとも危険か……
102話 どれも、たいしたことはないが……強いて言うならば……貴様が、この中で、もっとも危険か……
(もし、何か、攻撃的なことをされた時は……最優先で蝉原を守る……蝉原さえ生きていれば、なんとかしてくれる……)
心の中で、そうつぶやきつつ、
注意深く、ジオメトリの趨勢を観察するセン。
……バチバチっと、電気が走る。
空気がよどむ。
(なんだろう……なにがどうとは言えんが……すっげぇイヤな予感がする……この寒気……このキモい圧力……俺に何かを思い出させる……なんだ……)
場の雰囲気に、センが、がっつりと引いていると、
ジオメトリの向こうから、
「……ぷはぁ」
――現れたのは、
『金のヴェールを纏ったような男』の異形。
その異形は、すぅと深く息を吸い込むと、
二秒ほどかけて、はぁあ、と吐いてから、
スっと目を開ける。
その奇怪な目で、ジっと、チーム蝉原の面々を見つめ、
「ごきげんよう、私は『ウムルD』。偉大なる神に仕える者。得意技は時空操作。よろしく、どうぞ」
などと、挨拶をかましてきた。
その、あまりに禍々しい雰囲気から、
(……や、やべぇ……こいつは、やばすぎる! 何がどうとは言えんけど、絶対にやばい……逃げっ――)
センは、頭の中で、逃走本能に火がつくと同時、
「総員、退避ぃいいい! 俺が少しでも時間を稼ぐから、なんとか逃げ――」
と、叫びながら、猪突猛進・無為無策に、ウムルDへと突撃をぶちかました……直後のこと。
ウムルDは、
「判断力と決断力に関してだけは、非凡なものがあるような気がしないでもないが……それ以外は、何もないな、貴様」
ぽつりと、そうつぶやきつつ、
センの必殺『問答無用・バール振り下ろし特攻』を、顔面で受け止める。
カキィイン!
と、鉄をはじく音だけが響く。
微動だにしないウムルDと、
「いってぇええええっっ!!」
振動のシビレから生じる激しい痛みに震えるセン。
ウムルDは、
激痛に涙を流しているセンの首を、
左手で、スっとつまむ。
「ぐえっ!」
『小さな虫を潰さないように』……という配慮がうかがえる、丁寧な捕縛。
センは、手のしびれ・痛みに耐えつつ、じたばたと抵抗するが、ウムルDの左手から、まったく逃げ出せない。
――そんなセンに視線を向けることなく、
蝉原たちを見つめながら、
『ウムルD』は、
「どいつもこいつも、たいしたことはないが……強いて言うならば……貴様が、この中で、もっとも危険か……」
そう言いながら、右手の人差し指をスイっと小さく動かす。
その瞬間、
蝉原の上半身が、
ズッバァアアアアアアンッッ!!
と、盛大に炸裂した。
見間違いようのない、蝉原の『グロテスクな爆散死』を目の当りにして、
チーム蝉原の面々が、一斉に絶句する。
悲鳴すら上がらなかった。
誰もが、ただただ青白くなる。
そんな静まり返った絶望の中で、
ウムルDが、
「危険……という表現は、流石に言い過ぎだな……どういう表現がベストだったか……そうだな……まあ……ここにいる微生物の中では、まだマシな方……というのが最善か……」




