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55話 孤高の騎士

 55話 






『契約完了。カースジェイル強化』






「もう、俺は……自由なんだな?」






『――それが、』



 ハルスは、



『主人を守るための行動ならば――』




 足に力を入れた。


 ドウゥ!! 


 と、土煙が舞った。風圧でサーバンが後方に軽く吹っ飛ぶ。


 飛び出す直前、強引に振り払ったため、サーバンの指が二本ほど折れたが、主人を守るためだ。

 必要な犠牲だった。




 ――3歩で詰める。


 スキルなど、何もつかっていない。

 ただの、圧倒的な俊敏性。


 世界最高峰の脚力。


 ほぼ一瞬で、ゲイドとの距離をゼロにすると、






(ちっ、ころせねぇ……なんで、だよ……)






 ゲイドの首を刈ってセイラを奪い返そう――としたのだが、それは叶わなかった。


 確実に首を落とせる力で手刀を、ゲイルの首裏めがけて放つと、皮膚に当たる直前で、ハルスの体が、金縛りにでもあったかのように、ビシィィっと急停止した。


(……しゃぁねぇ……)


 仕方なく、ゲイドの首に、手加減した手刀を落とす。

 今度は呪いに邪魔されなかった。


 一瞬でゲイルを気絶させて、ハルスはセイラを奪い返す。


(おそらく……俺が『強すぎる』せいで、殺せないんだ。……もし、俺に力が足りず、『セイラを助けるためには、どうしても、こいつらを殺さなければいけない』という状況だったならば、問題なく殺す事ができただろう)


 ――全然、自由じゃねぇじゃねぇか。クソが。


 勇者は心の中で舌を打つ。

 融通がきかない、妙にガンコで細かい呪いに心底イラつく。


(……この俺様ならば、『殺すまでもなく救えてしまう』から、殺せなかった……くく、まあ、ようするには、いつもどおり、俺が強すぎるってだけの話さ。純粋で当然な、ただの必然。わざわざ、凝った感情を向けるような対象じゃねぇ)



 ハルスは、低位(深淵から最も遠いという意味で、ランク1が最低位)の『部分的に風を鋭利にする魔法』を使い、サクっと、セイラの腕を縛っているヒモを切り、

 口から布切れを取りだしてやる。



「けほっ、けほっ」


 苦しそうに息を吸い込んでから、セイラは、ハルスの腕に抱かれたまま、彼の目をジっと見つめた。


 細く小さな体をギュっとして、ハルスにしがみつく。


「ぁ……」


 声が出にくい。

 脳をしめる、たくさんの言葉がグチャグチャになって、ノドがつまる。


 けれど、言わなければいけない。

 セイラは必死に喉を開く。


「ぁり……」




 辛い目にいっぱいあってきた。


 生きてきて良かったと思った事はない。

 今、この瞬間だって、『生まれてきて良かった』とは思っていない。


 けれど、『閉じ込めてシェイクした炭酸』を解放したみたいに、

 自分の奥から、不安定な感情が爆発して溢れ出る。


 心の場所が分かった気がした。


 ハルスの、鋼のような腕に抱かれているセイラは、目にたくさんの涙を浮かべて、




「ぁり……がと……ぅ……」




 感謝の言葉を受けて、ハルスは、


「キモい……ヵァァ、ウエェ……虫酸で、死ぬ……けぇっ……おえっ」


 苦々しさを噛み殺す、

 『心底から疲れ切った顔』を浮かべて、



「おい、カス、いいか、二度と言わすなよ。……その勘違いを今すぐ殺せ。己の過ちを自覚して猛省しろ。まったく、今の俺が、どれだけのヘドを我慢していると思っていやがる」



 ハルスは、結局のところ、我を通しているだけ。

 本質は何も変わらない。

 これからだって、変わってやるつもりはない。



 ――しかし、



「ゴチャゴチャ言わず、ここで、黙って、ジっとしていろ。それ以外は、何もするんじゃねぇ。もし、大人しくしていられるのなら、これ以上、俺を不快にさせないと約束するなら………………甚だ遺憾だが……死ぬほど不快だが……マジで今すぐ殺してやりてぇって気持ちがバーストしている……が……」


 言って、セイラをおろすと、ハルスは、


「今だけは、てめぇのナイトをやってやる」



 背後に視線を向ける。

 ――そこには、



「驚いたぜ……さすが魔人だ。……指が折れたのなんて久しぶりだぜ」



 即座にハルスを追いかけてきたサーバンがいた。



 勇者は、ニっと笑って、


「さっさと逃げていれば、指二本で済んだのに、バカな野郎だ」





 そう言って、一歩、前に出た。


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