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53話 ごめん

 53話。






 勇者は、サリエリを殺さなかった。

 足蹴にし、蹴りつけ、翼をむしり、


 けれど、殺さなかった。

 その理由を問われたら、勇者はこう答える。



「あ? あの状態で残しておけば死ぬだろ、普通」



 魔王城には、1250体の魔物が、あちこちに配置されている。

 その内の300体が回復魔法を使える。


 異常に多い数だ。


 魔王軍に回復魔法の使い手が多い理由は単純。

 魔王が、そうしろと命令したから。



「可能な者は、必ず回復魔法を会得するように」



 ――まずは生きねば――

 それが魔王の方針だった。




 勇者とは対極の思想。




 魔王が描く、完全なる平和の第一歩。

 それには、まず、尊い命を守ることが最優先。














 この、いくつかの前提から結論を導き出す――みたいなマネはしない。


 淡々と、つまらない前提を並べるだけで、結論を書かないというのは、

 あるまじき行為であり、心底から、もうしわけないとは思うのだけれど――



 ……

 ……

 ……

 ……

 ……



 //少し卑怯だが、勇者の本音を書く。


   勇者は、いつも、どこかで、可能性を探している。

   勇者は、魔王城で刃向かってきた血色のいい子供たちの姿を見て思った。


   もしかしたら、サリエリなら、魔王なら、あるいは――

   揺らいだ自分にイラついたのも勇者自身の本音の一つ。


   もしかしたら。違う。ありえない。けれど。

   あるんじゃないのか。方法。もしかしたら。ない。


   分かっているだろう。

   でも。いや。ない。諦めただろう。






   ――もしかしたら――






   これ以上、揺らがぬように、と、勇者は、慌てて子供たちを殺した。

   望まぬ生を歩んでいるガキは、見つけ次第殺す。

   理不尽かつ不条理なエゴで圧殺する。


   弱者が生きていたって苦しむだけ。勇者は、それを知っている。

   だから、終わらせる。


   それは、善意ではない。決して違う。断じて否。

   どこまでいっても、ただのエゴ。


   誰に、どう思われようと、知ったことじゃない。

   決めている。遵守する。己が哲学に従う。例外はない。


   自分の中の矛盾と闘いながら、結局、

   最後の最後まで、勇者はサリエリにトドメをささなかった。


   どうしたいのか、分からなかった。

   『分からなかった』というのを引きずりたくなかった。


   決めたはずだ。決心したはずだ。

   なのに、なぜ、まだ――


   勇者の心は複雑怪奇。

   けれど、それって、勇者だけの特別なのかな?

   違う。誰だってそう。例外はない。


   諦めた部分と、諦めきれていない部分が、

   まだ、心の奥で、血みどろになって闘っている。


   どうすればいいのか、本当のところ、分かっていない。

   まだ若すぎるとか、そんな問題じゃない。


   どれほどの高次生命であろうと、

   その高次生命が、どれだけの時間と経験を重ねようと、

   仮に、何千年、何万年、何百億年を重ねても見えない。

   そんな『結論』を、

   勇者は求めている。


   だから、当然のように、いつだって。

   自分が本当にしたいことが、最後の最後で理解しきれずにグダついて終わる。






   勇者――






   ハルス・レイアード・セファイルメトスとは、

   そういう、


   ――『人間』だ//


 

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