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52話 ドレイランク

 52話 






 『ドレイとしてのランクを下げますか?』



 ――急に、声が響いた。




「……あ?」



 勇者はつい、顔をあげる。

 声の主が、目の前にいるわけじゃない。


 そんな事は分かっている。

 これは、ただの反射。



 勇者は、頭の中で響く声に集中する。



 『ドレイランクが下がると、主人の命が最優先になります。つまり、主人の死=己の死となってしまいます』



「なに?! ……そ、それは……俺が死んだら、あいつも死ぬってことか? イコールってのはそういうことだろ、なぁ!」




『いいえ。主人が死んだ際、一緒にドレイが死ぬだけです』




「……んーだよ、それ……」


 勇者は悲痛な面持ちでつぶやく。


「じゃ、じゃあ……なんの意味もねぇだろぉ……」




「小僧、一人で何をブツブツ言っている? ついに、頭がおかしくなったか? 元々、かなり、イっているように見えたが」




「……うるせぇ……黙ってろ」


「本当に口の減らない小僧だ」


「黙れ、うるさい、本当に殺すぞ。もう、我慢の限界なんだ……」


「お前に俺は殺せない。どうやら、セイラを助けたいと願っているのは本当らしいが、しかし、お前は、それでも、俺に僅かも手を出していない。魔人なら、魔法が使えないということはないだろう。仮に、魔法使用不可のアリア・ギアスをかけていれば、魔王ほどではないにしても、それなりの膂力は持っているはず。つまり、お前は、自分の意志で無抵抗を貫いている。――代紋を背負っている自覚がある証拠。お前は、本当に、いい極道になるだろう」


 サーバンは、心からの本音を言う。


 『力』は最も大事だ。

 それを否定することは、絶対にありえない。


 しかし、だからって、それ以外の全てがゴミになるわけじゃない。




 『任侠』を、ただ盲目に『古いからダメ』だとバカにするほど、サーバンの底は浅くない。


 もちろん、古い概念だとは思っているが、『古い』から『間違っている』わけじゃない。

 ダサいし、流行らないし、かったるいと思うが、『くだらない』とは思わない。



 サーバンは言う。


「そんな顔でうつむくな。おとこが下がる。……お前は強い。ただ暴れるだけのバカよりよっぽどなぁ」






「俺が……強いだぁ? バカが。んなことは、わざわざ言われなくても知っている。俺は最強。無敵。人類……最強……」


 あまりの虚しさに、ゲボを吐きそうになった。


「はっ……はは……どこかだ……」


 勇者は、


「……みっともなく負けて、逃げて……だから、こんな目にあっている……」


 自分を否定する。


「そんな俺の……どこが強い…………ただのクソじゃねぇか……」


 テメェで、テメェの存在価値を殺す。






「確かに、今のお前にあるのは、まだ、覚悟と自覚だけだ」


 サーバンは、遠くを眺めながら、


「もし、『人情』などという、人の手には余る我を通したかったら、ありとあらゆる全てに備えた力を持つしかない。それは困難な道だ。だというのに、もし仮に、よっぽどの強大な力……たとえば、勇者ほどの、万能で強大な力を持ったとしても、この世界は何も変わらない。事実、変わっていない現実が、ここにある」


 勇者は強い。

 圧倒的に強い。

 ケタ外れに強い。



 ――けれど、その事実があっても、世界は何も変わっていない。



「勇者はクズだと聞く。だが、世界が変わっていない理由はソレじゃない。仮にだが、お前が勇者ほどの力を持っていたとしても、せいぜい、セイラみたいなヤツを百人か千人、多くても一万人救えるくらいだろう。この世界は、その何十、百倍にも及ぶ『巨大な不幸』の上になりたっている。お前が『理解』しなければいけないのは、それだ。――まずはそこから、だ」






「マジで、いい加減にしろ……ずぅぅっと、ぐだぐだ、どんだけ高い所にいるつもりなのか知らねぇが、テメェの話なんざ、こっちはハナから一ミリたりとも聞いてねぇんだよ……つぅか、俺は、お前に、うるせぇっつってんだ。俺にそう言われたら黙って死ね、この、カスが」


 頭の中が、ずっと沸いている。

 プチプチと、体から、妙な音が聞こえる。




 感情がラリってきた。


 あまりにも、色々と『向こう側』に行き過ぎて、

 自分が何を言っているかもわからなくなってくる。




「知ってんだよ、この世界のクソっぷりなんざ、わざわざ他人から御高説をたまわらなくても、生まれた時から知っている!! だから、俺はぁああああ――」






『確認がとれていません。了承か否定を。ドレイランクを下げますか?』






「てめぇも、うるせぇ! 意味がねぇんだよ! 俺が死ぬことで、あいつも死ぬなら、まだ考える余地はある! だが――」



『ドレイランクを下げると、主人の命が最優先となります』



「それは、もう聞いた! こっちの話も聞けや、クソが――」



『魂魄の深層に刻まれる優先順位の序列1位。それは、すべてにおいて優先される『命』のメインクラス。つまりは、コスモゾーンの法則、第一条第一項第一号の規定。決して、何モノにも縛られない、原初の義務と権利』



「だから、もう……ぇ」




『ゆえに、』



「ぃま……なんて」










『ドレイでありながら、どんな自由も許されるようになります。

 ――それが、主人を守るための行動であるならば――』










「下げろ。今すぐに」


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自作コミカライズ版35話公開中!ここから飛べます。 『センエース日本編』 また「センエースwiki」というサイトが公開されております。 そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。 「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*) センエースの熱心な読者様である燕さんが描いてくれた漫画『ゼノ・セレナーデ』はこっちから
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、知りあいが死ぬのは絶対に嫌なタイプか ここまで我が道を行く性格なら嫌なことを我慢するぐらいなら死んだほうがマシだろうね
[気になる点] なんか後からごちゃごちゃと難しい話が始まったけど、 最初に言ってた主人の死→自分の死に繋がるなら、 主人に加えられる危害は自分に対する危害になるってことでは? ならその時点で既に自分に…
[気になる点] 『魂魄の深層に刻まれる優先順位の序列1位。それは、すべてにおいて優先される『命』のメインクラス。つまりは、コスモゾーンの法則、第一条第一項第一号の規定。決して、何モノにも縛られない、原…
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