1話 音文、元気に吹っ飛ばされているとこ悪いんだけど、そろそろ意識朦朧としてきたから、早めに助けてくれる?
1話 音文、元気に吹っ飛ばされているとこ悪いんだけど、そろそろ意識朦朧としてきたから、早めに助けてくれる?
「とにかく戦え! 大丈夫! お前なら勝てる! 確かお前、『中学の時、蝉原のチームで幹部やってた』ってヤンチャ自慢してただろ!」
「会計係としてなぁ!! エクセルと会計ソフトが使えたから高待遇を受けただけで、喧嘩はクソ弱いんだよぉ!」
そこで、音文は、頭を抱えて、
「夢……絶対に夢だ……こんな、わけわかんねぇこと、夢にきまってる……もう、いい、起きろ、起きろ、起きろ……っ」
「現実から逃げちゃダメよ、シンジくん」
「……お前、両足無くなってんのに、よく、そんなチョケれんなぁ、どうなってんだよ」
「どうなってるって? いうまでもなく病気だ。俺、頭、逝っちゃってんだよ。いうまでもなく、とっくに、ご存じだろ? クラスメイトなんだから」
「……」
「そろそろ、おしゃべりの時間は終わりだ。ここまで、なぜか黙って見守ってくれていたセイソウさんだが、流石に、いい加減、痺れを切らす頃だろう。……さあ、おめぇの出番だぞ、音文。俺のスキだった自然や動物たちを守ってやってくれ」
「いや……どうしろと?」
ただただ困惑しているだけの音文。
そんな彼の元に、
それまで黙って見守っていた星霜幽珀斗が、ゆっくりと近づいてきて、
「私を支配したければ、私を倒してみせろ」
と、おそらく『プログラミング通り』なのであろう定型文セリフを吐いてから、
星霜幽珀斗は、音文の腹部にドゴっと、一発、なかなか重たい拳を叩き込んだ。
「うげぼぉぇっ!!」
スーパーヘビー級チャンピオン並みの拳を喰らって、当然のように嘔吐する音文。
「痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……マジのやつじゃねぇか……やっばぁ……えぐいって、なに、これぇ……」
殴られたお腹を両手で押さえ込んで、その場にへたり込む。
「いたいいたいいたいいたいぃ……」
ちゃんと普通にボロボロと泣きながら、
痛みを訴える、平和ボケした日本人の音文さん。
そんな音文さんを見下ろしながら、
センが、ボソっと、
「情けないやろうだ。たかが腹パンくらったくらいで、ダウンしやがって。そういうとこだぞ」
「ばかか……おまえ……くらってみろ……」
「食らうまでもなく耐えられるに決まってんだろ。こっちは両足失ってんのに、戦意喪失してねぇんだぞ。ちなみに、この足、自分で切ったからな」
「……キチ◯イぃ……」
しんどそうに呟く音文の、下がった後頭部に、星霜幽珀斗は、
「ふんっ!」
そこそこの蹴りを叩き込む。
「ぶげぇえっ!!」
吹っ飛ぶ音文を尻目に、
センは、
「音文、元気に吹っ飛ばされているとこ悪いんだけど、そろそろ意識朦朧としてきたから、早めに助けてくれる? ったく、いつまでモタモタと遊んでいやがるんだか……そういうとこだぞ」
「……」
「音文? おーい、あれ? もしかして気絶した?」
「……」
「あーあ……やっぱダメか。もしかしたらって期待したんだけど……まあ、無理だろうな……そりゃそうだ……うん……」




