128話 人を殺せる風俗があればいいのになぁ。
128話 人を殺せる風俗があればいいのになぁ。
音文は、足元で蠢いているアリを踏みつぶした。
ぐりぐり、ぐりぐりと、かかとで何度も踏みつけて、命の終わりをかみしめる。
アリの命じゃ、ショボすぎて、この感情はちっとも収まらない。
近く花壇の花に、テントウムシが止まっていたので、それを指で捕まえてブチっと潰した。アリよりはマシだが、この程度で気は晴れない。
(人を殺せる風俗……みたいなのがあればなぁ……)
……などと思っていると、
ちょうど、視界の隅に、弱っているゴキブリがうつる。
音文は、その『死にかけのゴキブリ』を、むんずと掴むと、
最初に、触覚を引きちぎり、次に足、羽、
頭をもいで、最後に胴体を粉々にしていく。
「これを……人間で出来たらいいんだけどなぁ……虫は悲鳴の一つも上げないから、なんも面白くねぇ」
などと、『本音の奥』にある『一番重たい本音』を口にしつつ、
音文は、校門へと向かって歩く。
★
『毎日がつまらない』ってのは、『つまらない人間』の発言だ……
というのが、音文の持論の一つだが、
「……えぐいほど、毎日、つまんねぇなぁ……」
自分自身のつまらなさに対して辟易する。
久剣のような、質の高い美少女と付き合うことが出来れば、
このつまんねぇ人生も、ちっとはマシになるか……
などと思い、何度か誘ってみたが、
まったくもって相手にされない。
そういう『てめぇの現実』を前にして、
音文は、表層的には『ノーダメージ』を装っているが、
実際のところは、だいぶダメージを受けていた。
『フラれた事そのもの』がしんどいんじゃない。
『久剣程度に簡単にフラられる自分』がしんどい。
なぜ、自分はこんなに微妙なんだ……
と、独りになると、いつも落ち込む。
惚れた腫れたには、実のところ興味がない。
興味があるのは、いつだって自分の事だけ。
自分が他人からどう見えるか、という見栄。
それだけが、音文にとっての大事なすべて。
世界の中心で肥大した自意識だけを叫ぶ獣。
(確か、閃って、早稲田を狙っているんだっけ? ……俺も、同志社じゃなくて、早稲田にしようかなぁ……早稲田から任天堂に入った方がステータス高いよなぁ……)
大学で何がしたいわけじゃない。
会社で何がしたいわけじゃない。
だから、有名大学だったら別にいいし、
大企業だったらどこでもいい。
ただ、自身のスペックが微妙なので、狙いを絞らないと色々難しい。
(早稲田も……ガチれば行けるよなぁ……どうすっかなぁ……でも、万が一落ちるのダルいしなぁ……任天堂一本狙いなら、同志社の方が、地元だから有利だし……実績的にも――)
などと、色々と考えながら歩いていた、
その時、
「……ん?」
妙な違和感を覚えて、
音文は立ち止まる。
「なんだ? なんか……ん?」
耳の奥がキーンとする。
次第に、視界がゆがみだす。
「あ、やべ……立ちくらみ? うわ、ウザ……」
フラつく体。
痛む頭。
そして、脳内に響く幻聴。
――無茶を……んだがなぁ……あそこにいる……モン……は弱くて、でも、セイソウなんと……、ご都合……っぱいの誰かし……頼む……来てくれ!!
キンキンする耳。
なぜか、その幻聴は、クラスメイトの閃の声に似ていた。




