109話 舞い散る閃光の拳。
109話 舞い散る閃光の拳。
「なかなか悪くない流動だ。しかし、まさか、それで私を殴ればダメージをあたえられる、などと夢は見ていないだろうな。一応、言っておくが――」
「うるせぇよ」
センは、禍羅魅神鬼の言葉を遮って、
「今、お前に効くかどうかなんざ、どうでもいい……これは、最初の一歩……大事なことは踏み出せるかどうかだけ!!」
そう叫んでから、
センは、禍羅魅神鬼に特攻を決める。
全力でオーラをためた拳を、ただ叩きつけるだけじゃ味気ない。
そう思ったセンは、
自分の心に従った。
思いついた『ダサさ』は圧倒的で、
この恥ずかしさなら器になる、
と確信できた。
だから、
センは、
いっさい躊躇せず、
「閃拳!!!」
自覚していないが、
それは、繰り返し続けた結晶。
『熟練度』も奪われているが、
しかし、『繰り返し続けてきた』という事実までは奪えない。
センの拳は、
ありえない火力でもって、
ズガンッッ!!
と、禍羅魅神鬼の腹部につき刺さる。
「……ぁ?」
禍羅魅神鬼は、不思議そうな顔をしていた。
そんなわけがなかったから。
「そのゴミのような存在値で……そのカスみたいなオーラで……なんだ、その異常な火力は? はぁ?」
もはやバグと言ってもいいだろう。
常識に唾を吐くような一手。
歩が飛車の動きをしてみせたような……もはや、バグというか、ただの反則のような一手。
本当に異常な火力だった。
……それは間違いないが、禍羅魅神鬼がどうにかなるほどではなかった。
だから、
「うぼぉえっ!!」
『閃拳をもう一発いれてやる』と意気込んで踏み込んだセンの腹部に、綺麗なカウンターを入れる禍羅魅神鬼。
アバラを何本も砕かれ、臓器に重たい傷がつく。
「う……ぎぎ……」
朦朧としているセンだが、
心にぐっと気合いをぶち込んで、
「閃……拳……」
折れずに立ち向かい続けるセンに対し、
禍羅魅神鬼は、
「いい加減気づけ。その愚かしさの果てには何もない」
そう言いながら、足を引っ掛けて、センをすっ転がす。
無様にすってんころりんしたセンは、
「は、はは」
禍羅魅神鬼の言葉を鼻で笑ってから、
「オーラの使い方を学んだ……実戦の中で、閃拳という恥ずかしい必殺技を磨いた。……あのスライムの技レパートリーに、異次元砲とかいう、そこそこの照射があることがわかった……」
今回の収穫を並べて揃えてから、
センは、強い目で禍羅魅神鬼を睨み、
「忘れちまうだろうが、できれば心に刻んでおけ、禍羅魅神鬼。――俺の愚かしさは、いつか必ず、お前に届く」
最後にそう言い切ってから、
センは、
「俺はまだ頑張れる」
過去へと飛んだ。
★
目が覚めた時、
センは、
「ん……」
見知らぬ天井を見つめていた。
真っ白な空間。
体を起こしたセンは、
さっそく、自分の親指をガリっと噛んで、
地面にジオメトリを描くと、
抜いた髪の毛を供えて、
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」
と、前置きとなる呪文を唱えてから、
「いでよ! なんかこう、刃物的な武器を持つ人型モンスターか、カマキリみたいな刃物系の身体的特徴を持つモンスターよ!」




