100話 センエース、探偵さ。
100話 センエース、探偵さ。
センに恐怖をあたえていたデデの仮面は、どうやら、無敵ゴリラという絶体絶命の絶望を前にして熱く燃え上がったようで、ヒュンッ、と、凄まじい速度で、ゴリラの顔面にはりついた。……ゴリラは、それを、避けようと思えば余裕で避けられたが、
「面白い! 一介の中級モンスターとは思えない、その根性。『世界一の神を信仰する武人』として、全身全霊で受け止めてやろう! がははははははは!!」
膨大な誇りと根性で、
デデの『いたちっぺ』と向き合うゴリラ。
そんな中で、ゴリラが、
「ん……ちっ! いかんな!」
「え、なに、どうしたぁあああ?!」
「ワシと貴様の繋がりに食いついてきた! 貴様の強制力が低すぎるというのもあって、強制送還されてしまう! この仮面、本当に、ハンパじゃない根性だ! 喝采に値する! 褒めてつかわす!! がははははははは!」
体が消えかけているゴリラをみて、
センは、母親と迷子になりかけている幼児のような気持ちになった。
「モンスターを褒めてる場合か! まじで待ってくれ! 消えるな! あんたがいないと、俺は死ぬぞ! いいのか! 俺の命がどうなってもいいのか!」
「がはははは! 心配せんでも、ちょうど、この世界にワシの配下が送り込まれている! そいつらを頼れ! お前を救助せよと、連絡を入れておく!」
「まじか! 最高だな、あんた! 助かるぜ!」
「それで、小僧。貴様の名前は?」
「センエース、探偵さ」
と、そう答えた直後、
ゴリラは、一度、目を丸くした。
「……」
一瞬で、無数なる思考の海に溺れた。
P型の可能性、
それ以外の偽物の可能性、
単なる嘘である可能性、
色々な可能性が浮かぶが、
しかし、
(恐ろしく強固なフェイクオーラ……ヒントがなければ、絶対に気づけないほどの完璧な擬態……しかし、その奥では、確かに……揺らめいている……チリチリと、美しい狂気の炎……偽物ごときに、この輝きを再現できてたまるか……)
破格の洞察力を有し、
主を心から愛し、
召喚された、という繋がりもあり、
美しき名乗りを享受できた。
そういう全てが重なったことで、ようやく気づけた。
状況を察したゴリラは、
「ふっ……」
と、一度、柔らかく微笑んでから、
目を閉じて、
「またお戯れを……」
そうつぶやいた直後、
ゴリラは闇の中へと消えていった。
ゴリラは、センエースを信頼している。
ゆえに、今のセンの状況を、
『厄介な面倒ごと』だとは認識せず、『変わった手法で、配下の監視に勤しんでいる』と認識した。
一応、『トラブルに巻き込まれている』という可能性も考慮して、行動を取る気ではいるが、その必要性は皆無だろうと考えている。
残されたセンは、
「うわぁああ! マジで消えちまった! ちょっ、帰ってこい、無敵ゴリラぁああああ!!」
母親とはぐれた幼子のように泣きじゃくるセン。
「そ、そうだ! もう一回、召喚すればいい!!」
そう思ったセンは、
さっきと同じ流れで、ジオメトリを描き
「うぎぃいいいいいいい!!」
せっかく再生した自分の左足を切断し、
それをお供えして、
「む……無敵ゴリラ、召喚!!」
ゴリラを召喚しようとするが、
「マッスルゴリラ、召喚! ゴリゴリゴリラ、召喚! くっそ、名前、聞いときゃよかった! 何やってんだ、俺ぇえええ!! ……あっ……」




