98話 簡易召喚術式。
98話 簡易召喚術式。
「ぎひひ! どうだ! 生きることが辛かろう! 自殺してもかまわないぞ! ぎひひひ!」
そんな、バフメットの言葉を聞いたセンは、つい、鼻で笑いそうになってしまった。
現状のしんどさは、あえて例えるなら、『500連勤・月残業300超ぐらいは当たり前の超絶ブラック企業のエンドレス社畜を経験してきた者』にとっての『残業5分』程度の辛さ。
その程度の負荷で『自殺したかろう?』とか言われても、
『いや……まあ、できれば残業したくないっすけど、別に、5分ぐらいなら……残業してないのと同じというか……なんというか……』
と困惑してしまうばかり。
(……こんなショボい恐怖とかどうでもいい……それより、さっき、あの悪魔がやった召喚術……あれ、もしかして、俺でも出来んじゃね?)
もはや完全に恐怖に慣れ切ったセンは、
極めて拙い『もしかしたら』にしがみつく。
(あの悪魔がやったのって、血で魔法陣を書いて、その魔法陣の上に、俺の足を、ソっと、お供えしただけだよな……)
見た限りでは、確かに、それだけだった。
魔法陣に何か『特別な魔力が込められている』とか、そんなふうにも感じない。
感じないだけかもしれないが……
(実は、随所に、特殊なスキルが使われています……って可能性もゼロじゃねぇが、マイナスの可能性なんか考慮するだけ無駄だ。まずは試す! ダメだったら、ダメだった時に考える!)
決断したセンは、
自分の血を使って、
地面に、ササっと魔法陣を描いていく。
バフメットが書いたジオメトリは、かなり簡素なものだったので、それっぽいものを真似するのは簡単だった。
魔法陣を描き切ると同時、
センは、切断された自分の左足を掴んで、ジオメトリの上にセット。
その様子を黙ってみていたバフメットは、
腹を抱えて笑い、
「ぎひひ! 愚か! 簡素ジオメトリは、真似るだけでできるものではない! 最低でも1000回以上は魔法陣を描かなければ、効果を発揮しない!」
……ちなみに、
センは、長き神生の中で、
当然、簡素召喚の練習をしたこともある。
力と記憶は奪えても、『努力をしてきた』という『記録』まで奪うことはできない。
ちなみに、センが、長き人生の中で、
簡素ジオメトリを描いてきた回数は、
ざっと、『6億』回以上。
そして、媒体にしているのは、
この上なく尊き神の王の左足。
……だから、
「来い! 誰でもいい! とにかく強いやつ! できれば天才がいい! サバイバルとかも余裕でこなせる、頼り甲斐マックスで万能なやつとかなら最高! 頼む! この状況をどうにかできる、強いヒーロー! 来てくれ!!」
その要請は、コスモゾーンに問題なく届く。
ジオメトリが、パァアアアと、力強い輝きを放った。
デデ・マスクランダを召喚した時の輝きとは質量がまったく違う。
深く、重く、そして何より力強い。
そんな神々しい輝き。
「がははははは! 信じられんな! まさか、このワシが召喚されるとはなぁ! がははははははははははははは!」
魔法陣から現れたのは、筋肉の化身。
とてつもないオーラを放っている化け物。




