95話 俺の童貞を君に捧ぐ。
95話 俺の童貞を君に捧ぐ。
「くらえ、エターナルフォースブリザードパァアアンチ!! 相手は死ぬぅうう!!」
ただただ全力で右の拳を振り回すだけのセン。腰も入っていない、気合いも足りない、半端なギャグを叫んでいるだけだから覚悟も足りない。
そんな拳など、
「痛ったぁああああ!! ぴぎぃいいいいいいいい!」
当然、通じるわけもない。
虫モンスターの肉体は、そこらの鋼鉄なんか目じゃないぐらいにガッチガチで、どう足掻いても、かすり傷一つ、つけられる気がしなかった。
殴られた虫モンスターは、
そのキモい目をギラリと光らせて、
「ぎぎっ!!」
叫ぶと同時、
体を回転させながら突進してきた。
虫モンスターに生えている薄刃は、鋭いブレードのようになっており、センの脆弱な肉体を、豆腐みたいに、軽く一刀両断してしまった。
「く、くそが……」
腹から下を失って、地面に激突するセンの上半身。
ギリギリ保っている意識を総動員させて、どうにか、血溜まりの中のカギをつかみ、握りしめると、
「俺はまだ……頑張れる……」
いつものセリフで、今回の幕を閉じた。
★
目が覚めた時、
センは、
「ん……」
見知らぬ天井を見つめていた。
真っ白な空間。
体を起こしたセンは、
頭を抱えて、
「……1000年修行したって、アレには勝てん……」
普通に戦意を失うセン。
『あの虫と戦うのはやめよう』と固く決意する。
「虫も例外じゃなく強いとなると、もはや打つ手がないなぁ……この調子だと、多分、魚とかも、ジョーズの魔改造進化系みたいなのしかいないだろうし……あとは、どっかに『豆』的な何かが大量に落ちていることを祈るばかり……納豆的な良質タンパクが理想だが……ねぇわなぁ……ここが遺跡じゃなく、森とかだったら、その可能性もゼロじゃなかったんだけどなぁ……」
八方塞がりで途方に暮れるセン。
普通なら、ここで心が折れて、絶望的閉塞状況に発狂するところだろうが、
「……ナメんなよ……クソッタレ……」
ギリっと奥歯を噛み締めるセンさん。
『絶望的状況下』に落とされた事で、
むしろ、心の芯が熱く沸騰し始めた。
エンジンが、唸りを上げるみたいに、
「絶対、異世界ハーレム主人公になったるんじゃぁあああああああああああああああああ!!」
覚悟を叫びながら、
センは、ヤクザキックで、
壁をぶち破っていく。
そして、扉を出ると、宝箱を蹴り上げる形でこじ開けて、ナイフを掴み取ると、
先ほどの虫が湧いたのとは別のルートで全力ダッシュ。
(なんかねぇかぁ! なんかぁ! ――『歩くだけでレベルが上がるハッピーなクツ』とか、『テンションが上がるミステリアスなタンバリン』とか、『攻撃力が倍になる戦闘狂な太鼓』とか! そういうチートが、どっかに転がってねぇか! ラストダンジョンだったら、そう言うバグレベルのチートもあるもんだろう! 幸運の女神よ! 俺を愛してくれ! なんだったら、結婚してくれぇえ!! 俺の童貞を君に捧ぐぅうううううううううううううううう!!)




