93話 男は黙って、筋トレ!
93話 男は黙って、筋トレ!
「言うまでもなく、数日以内に、飢えて死んで終わりだが……」
現状、普通に腹が減っているし、なんだったら、まあまあ喉が渇いている。
「飢える前に脱水で死ぬな……すでに、目が痒くなるレベルで脱水気味……その事実を踏まえて計算すると……俺の余命は、『だいぶ盛りに盛って5日』がいいところだろうな……」
そんな自分の状況を前提にした上で、
センは、
「脱水で死ぬ前に、外の宝箱からナイフを取って、腹を捌いて、過去へリープ。これを繰り返せば、永遠に死なない……が、それって、ただの無間地獄だな。あまりにも未来がなさすぎる。それも、『鍵の効果が無限であることを前提』とした希望的観測バリバリの、不安が残る地獄だし」
センは考える。
ここからどうするべきか。
最善の一手の追求。
「簡単なのは、やっぱ、強くなることなんだよなぁ。鬼もブラマジも問題なく殺せる力があれば、遺跡の外に出ることはできる。……まあ、遺跡の外の方がもっと地獄で、ここが一番マシって可能性もあるのが辛いところだが」
ぶつぶつと、言葉を垂れ流しつつ、
センは、必死に考えた。
どうするべきか、
何が最善か、
考え抜いた末に、
「……やってみるか」
センは一つの決断を下した。
極めて単純な、脳筋すぎる一手。
「ふっ、ふっ、ふっ」
男は黙って、肉体強化。
腕立て、腹筋、ダッシュ。
限界まで自分を追い込んで、追い込んで、追い込んで、
「あ、そろそろ死ぬ」
脱水で死ぬな、と思ったタイミングで外に出て、腹を捌き、タイムリープ。
目覚めたら、すぐに肉体のチェックを開始するセン。
「……まだ、ちょっとわからんな……」
そうつぶやいてから、
センは、また、トレーニングを開始した。
ひたすらに、朝から晩まで、肉体をいじめ抜くと言う、『筋トレのメカニズムを理解している者の視点では、あまりにも非効率な手段』で、ただただ自分を追い込んでいく。
そもそも、何も食べずに筋トレだけしたって、筋繊維が壊れるだけ。
継続的なトレーニングにより、リボソームが増えて、タンパク質合成量は増えるが、合成する材料がなければ、筋肉は分解されるだけ。
栄養と休憩を与えないトレーニングはただのイジメ。
そんなことはセンも理解している。
今、センがやろうとしていること。
それは、
「ん……割れてきた……これは、確実に、脂肪燃焼の効果……」
二日ほど、徹底的に体を追い込み、鍵でタイムリープ、と言うのを、合計で30回ほどやったところで、自身の腹筋が明確に割れてきているのを確認したセン。
「ナイフ(アイテム)を引き継ぐことはできないが、俺の肉体は、間違いなく、強くてニューゲーム状態になっている。……『満腹度や喉乾き度はリセットされる』と言う、だいぶご都合主義な展開。いやぁ、助かる! まあ、その点以外が終わっているわけだが……」
ループで『肉体状況を引き継げるか否か』……センはどうしても、それを確認したかった。
これは、めちゃくちゃ大事なポイント。
身体ステータスを引き継げるのであれば、徹底的に鍛えることで、未来を掴み取ることも、あるいは、可能かもしれない。
「こうなってくると、最優先で考えるべきなのは『食べもん』だな……タンパク質さえあれば、体を作れる。虫のモンスターとかいるとありがたいんだがなぁ……仮に毒があっても、おそらく、ループの際に除去されるから、そこら辺は気にする必要ねぇ」




