91話 転移したらラストダンジョンだった件。
91話 転移したらラストダンジョンだった件。
(あのブラックマジシ◯ン、絶対にやばいよなぁ……)
センが視界にとらえたのは、
アストラルマジシャンという、王級のモンスター。
禍羅魅神鬼と比べれば、だいぶ劣る雑魚だが、それは比べる相手が悪すぎるだけで、王級モンスターは、ランクの低い世界では、大地震や大津波級のえげつない大災害。
何千人、何万人、あるいは何十万人という規模の被害が出てもおかしくない、最悪の厄災と言っても過言ではない化け物の中の化け物。
その『ヤバさ』を『鑑定眼系の魔法』ではなく、
『肌』で感じ取ったセンは、
(この遺跡、もしかして、めちゃくちゃエグいのか? 『転移したらラストダンジョンだった件』……みたいな感じか? だとしたら、それは、もはや、異世界転移であったとしても、ただの地獄落ちと変わらんな……)
心底しんどそうにため息をつくセン。
見つからないように逃げ出そうとするのだが、
「……まさか、それで隠れているつもりだったとは。おまけに、どうやら、逃げられると思っている様子。笑止千万」
見つからないうちに逃げようとしていたセンの目の前に、
当然のように瞬間移動してきたアストラルマジシャン。
センは、
「……うぅわ……えぇ……俺、息を殺してたよ……物音も立ててねぇしよぉ……」
「生命エネルギーを感知する程度のことが、この私にできないほど難しいとでも?」
「……『気の探知』ができるのかよ……俺は、絶なんざ使えねぇってのに……え、待って。じゃあ、近くにバケモノがいたら終わりってこと? 難易度、えぐぅ……ステルスゲーかと思ったら、ホラー運ゲーだったのかよ。さすがのフ◯ムも、ここまでの理不尽は突きつけてこねぇぞ、いい加減にしろ」
そんな文句を、アストラルマジシャンが受け付けるはずもなく、
「別に恨みはないが、侵入者を生かして帰すわけにはいかないのでね」
そう言いながら、
アストラルマジシャンは、
右手に強大な魔力を溜めていく。
このアストラルマジシャンは、まったく進化していない『ただのモブモンスター』なので、『本物の知性』は有していない。
パターン通りにしゃべっているだけで、そこに感情は存在しない。
表情、眼力、仕草などに『感情があるように見える工夫』が、いくつか凝らされているが、それも、あくまでも、状況に合わせたパターン解析、データ処理の結果に過ぎない。
そのことに、センは、短い対話の中で、なんとなく気づいた。
『本物感』を感じなかったから。
もっと言えば、『AI的な違和感』を感じたから。
とはいえ、それは、『相手の感情』に本物を感じなかっただけで、『命を奪い取ろうとする殺気』に『偽り』は微塵もなかった。
だから、
「ぴぃいいい!!」
センは、汚い悲鳴をあげながら、尻尾をまいて逃げ出した。
あの格好から推察するに、おそらく、アストラルマジシャンは魔法を使ってくる。
即死の魔法でも使われたらたまらない。
そう思ったセンは、腹からカギを引き摺り出すためのナイフを求めて、『二度と開けるまいと誓った宝箱』に向かって走る。




