89話 彼は、まだ、頑張れるらしい。
89話 彼は、まだ、頑張れるらしい。
諦めなくても失敗することもあるし、逆に、諦めたのにうまくいくこともある。
……ただ、今回ばかりは、明確に、『諦めなかった』から、『掴み取ること』ができた。
(これ……は……)
もうすでに視界はぐにゃぐにゃ。何が何だかわからない。
けど、感触だけは、少しだけわかった。
(かぎ……?)
温かい血溜まりの中で見つけた鍵。
センは、その鍵を握りしめて、
「俺は……」
なぜ、その言葉を選択したかはわからない。
「まだ……」
多分、心の芯に刻み込まれていたんだろう。
そうとしか考えられない。
「……頑張れる……」
覚悟を宣言した直後、
センの意識は、
――数分前に還る。
★
目が覚めた時、
センは、
「ん……」
見知らぬ天井を見つめていた。
真っ白な空間。
体を起こしたセンは、
周囲を確認しつつ、
「……これは……」
自分の下半身がちゃんとついていることを確認した上で、
「もしかして……ゼロから始めるタイプの異世界生活……かな?」
首を傾げつつ、
そう一人ごちてから、
「この状況……噂の『死に戻り』か、それとも……」
自分のお腹の中にある違和感に触れて、
「……俺の腹に埋め込まれているカギを握りしめて、『頑張る』って宣言することがトリガーになるタイプのタイムリープか」
現状、どちらの可能性もあるので、センは頭を抱える。
「……死に戻りの方が、『最悪(タイムリープ失敗)を回避できる』から、セーフティって意味では上だが、いちいち死なないと発動しないってのは普通にデメリットだよなぁ」
などと言いつつ、
センは、奥歯を噛み締めつつ、
「ふんっ」
自分の腹を引きちぎって、カギを取り出そうとしたのだが、
「いだだだだっ……うっぐぅううう!」
腹を捻りあげて、無茶苦茶痛い、というだけで、引きちぎることはできなかった。
そこまでの握力が、今のセンにはない。
「ナイフでさばいた方がはやいな……」
そう考えたセンは、
最初の時と同じように、
色違いの壁にヤクザキックを決めて、
扉を超えて、外に出ると、
宝箱を開けて、中からナイフを取り出すと、そのまま、
「うぎぃいい!」
自分の腹に刃物を食い込ませる。
グロ全開で、どうにか、腹の中のカギを引き抜くと、
「うぎぎ……」
ダラダラと血が流れていく。
全身を覆い尽くす痛みで、生きることが嫌になる。
「はぁ……はぁ……」
痛みの中で悶えていると、
そこで、背後から、バチバチっと、次元が裂ける音が響いた。
視線を向けてみると、前回とまったく同じ。
「ぷはぁ……」
明らかにヤバそうな、イカついオーラを放つ鬼が登場。
それを見たセンは、
(こ、この鬼が登場する条件は、一定の時間が経過することではなく、宝箱を開けることっぽい……)
と、状況把握に努めていると、
そこで、その鬼が、センを睨みながら、
「私を呼んだのは貴様か?」
などと声をかけてきた。
センは、鬼に返事をすることなく、
手の中のカギを強く握りしめて、
「……俺はまだ……頑張れる」
と、宣言した。
その瞬間、センの意識は途切れた。
自作コミカライズ版に関して。
禁域の話が終わるまでは、流れに沿っていきますが、
それ以降は、センに視点を強く置いたオリジナル要素を、
バンバンにいれていきたいとは思っております。
全く別の話というわけではなく、
この時、見えないところでセンは何をしていたのか……みたいな感じで、
コミカライズ版は進めていきたい……
と願っている感じです(*´▽`*)
実際にできるかどうかは微妙なところですが、
そうしたいという構えでやっていきます( `ー´)ノ




