86話 見知らぬ天井。
本日の2話目です。
86話 見知らぬ天井。
「……『トラックに跳ねられる前の記憶』は残しておくつもりだが、断片的には奪わせてもらう。その方が色々と楽なんでね」
そう言いながら、仮面男は……自身の仮面を外して、センの顔面に装着する。
仮面を外した『元仮面男』の顔は、目の下にでかい爪痕があって、腫れぼったい目に、への字口という、どうしようもない仕上がりだった。
顔面偏差値は48が精々。
そんな、どうしようもない容姿の元仮面男は、
仮面を装着しているセンに、
「これでゼノリカはお前に気付けない。で、最後にこれだ」
そう言いながら、
元仮面男は、
アイテムボックスから、『禍々しい鍵』を取り出して、
「ようやく渡すことができる……長かった……本当に、長かった……」
天を仰いで、感慨深そうに、そう言うと、
『元仮面男』は、センの腹部をナイフでサっと掻っ捌くと、開いた腹の奥へと、鍵をおさめて、
「神の慈悲」
回復魔法でさっと閉腹すると、
「あとは、もろもろ、うまいことやってくれ。長い旅になるが、お前ならできる。というか、普通にできた。俺にできて、お前にできないなんてことはありえない。……たぶんな」
★
……目が覚めた時、
センは、
「ん……」
見知らぬ天井を見つめていた。
真っ白な空間。
体を起こしたセンは、
周囲を確認しつつ、
「え、天国? それとも地獄?」
と、軽く錯乱した言葉を呟く。
センの視点では、
『トラックに跳ねられた直後』なので、困惑するのも当然。
ちなみに、格好は、当然、高校の制服。
その辺、抜かりはない。
「死後の世界か……それとも……異世界転移か……今の所、思いつく可能性はその二つ。できたら、後者であってほしいところなんだが……そうであってくれたら、『ヒャッホイもの』なんだが……」
立ち上がって、この空間内のアレコレを調べていく。
ものの見事に何もない空間。
「つぅか、俺、なんでこんな落ち着いてんだ? この状況、ヤベェだろ。普通に気ぃ狂ってもおかしくない状態……なのに、引くほど冷静……昼下がりのコーヒーブレイクとなんら変わらない平穏な心境……別に、死を受け入れている気はないんだがねぇ。あれかな。夢にまでみた異世界転移の可能性もあるから、その高揚感が不安を相殺してんのかね」
などと、えぐい独り言をぶちかましながら、『自身の心持ち』に疑問を抱きつつ、周囲の探索をしていると、途中で、お腹に違和感があることに気づいた。
「ん? なんか、腹に何かが……ん、これ、しこりか? ……まさか、大腸がんとかじゃねぇだろうなぁ……『もしかしたら、異世界転移かもしれない』って、ワクワクしているのに、がんで死にましたとか、勘弁してくれよ……医療が発達していない世界におけるガンとか、完全に死亡まったなしだからな」
などと呟きつつ、
センは、真っ白な壁を触ったり、蹴ったりしていく。
その途中で、一箇所だけ、微妙に色がくすんでいる部分があるのを発見した。
「ゲームだったら、確実にヒットで、次のステージに進めるんだが……はたして……」




