79話 彼女は他人に厳しいが、自分に対しては、その何倍も厳しい。
79話 彼女は他人に厳しいが、自分に対しては、その何倍も厳しい。
「みっともない戯言を……貴様は、間違いなく負けた。貴様の『本気で立ち向かわなければ届かない』という持論も確かに100%の事実だが、貴様が私に負けたというのも100%の事実だ。嬉しげに事実を語りたがるよりも先に、まずは、すべての事実を受け入れるところから――」
「改めていう。僕は『UV1ごとき負けた雑魚』じゃない。僕は『UV1という強者にギリギリ負けた強者』だ。僕に勝ったほどの超人を貶めることは、誰であろうと許さない」
「……」
そこで、UV1は、心底苦しそうに、ギっと奥歯を噛み締めた。
悪口のレスバカウンターなんかよりも、こういう『無駄に真っ直ぐな言葉』の方が、今のUV1には突き刺さる。
もし、アモンが『その辺の機微』を全部計算した上で小賢しく発言していたのであれば、その『しょっぱい狡猾さの脇腹』をついて口撃することもできたけれど、
(……ちっ)
言葉を押し込めて、
奥歯を噛み締めるUV1。
アモンはガキである。
ここまでずっと、それを前提に話を進めてきておいて、この場面だけ、彼を『狡猾老獪な蛇』と考えるのは、あまりにも手前勝手がすぎる。
UV1には、精神面に『色々と拙い部分』がある。
だが、間違いなく、病的なほど高潔。
ゆえに、アモンを見誤った自分が許せない。
もっとしょっぱいガキだと思っていたが、
思ったよりはマシな男だった。
そんなことすら見抜けない自分の『程度の低さ』に激しい憤怒を覚える。
彼女は他人に厳しいが、
自分に対しては、その何倍も厳しい。
「すぅ……はぁ……」
何度か、とことん深い深呼吸を繰り返してから、
「……『綿密な計画を放棄し、行き当たりばったりなやり方で進める』という案には賛成できない。どう考えても、それでは、マニュアルが作れない。それが私の結論だが、私の話を聞いた上で、何か意見があるなら聞かせてくれ、アモン」
――ソレは、『喧嘩に発展した原因の対話』の『やり直し』に他ならない。
『最初からギチギチに計画をくまなくとも、ある程度、行き当たりばったりでも、問題はないと思いますよ』
そんなアモンのセリフに対して、
UV1は『ガキの使いじゃねぇんだよ』と返したが、その部分は訂正した。
『そんな些事を気にしている時点でガキだ』とは思うのだが、そこは、誠意で黙った。
謝罪こそないが、
しかし、『完全なるやり直し』という現状は、ほとんど謝罪と同義。
全部ちゃんとわかっているアモンは、
「……」
『数秒の沈黙という間』を、感情ではなく理性でとってから、
「……どの世界でも通用する綿密なマニュアルって、作成可能なんですかね?」
「……」
「デザイン、項目、記載の順番、そういった『構成の部分』を一旦横に置いて、『中身』だけに注目して意見を述べさせていただきますが、『対象者』を誰に設定するか、という点で、UV1は見失っているように感じました。『とびっきりのスペシャリスト』である僕やあなたなら、緻密なマニュアル通りのミッション攻略も、容易にこなしてみせるでしょう。しかし、最終的には、天下『以下』の『配下級だけでの攻略』も視野に入れたマニュアル制作を義務付けられている以上、『最低限度の資質しか持たない無能』でも対応できる内容にすべきだと考えます。そうなりますと、ある程度、大雑把な骨組みにすべきというのが僕の見解です」




