75話 ワンダーボーイ。
75話 ワンダーボーイ。
……センが心の中で、ごちゃごちゃと、自分理論を垂れ流している間、UV1とアモンは、ずっと殴り合っていた。
お互い、ちゃんとガチに殴り合ったので、双方共に、だいぶ疲弊してきている。
血だらけのボロボロで、
お互い、それなりに満身創痍。
……決着をつけようと、
二人とも、ダっとかけだした。
二人とも目に炎を宿し、
まっすぐ行ってぶっ飛ばす、
と、心で叫びながら、
「「閃拳!!!」」
全力の必殺を叩き込む。
お互いの顔面に叩き込まれた、お互いの熱い拳。
最初に意識を失ったのは、アモンだった。
「ぐ……」
ばたりと倒れ込んだアモンを見届けてから、
UV1もガクっと膝をつく。
「はぁ……はぁ……」
なんとか気絶しないようにと頑張っているUV1。
指輪を外せば、縛りがなくなるので、余裕で耐えられるのだが、しかし、ソレは、信念が許さない。
『アモンに対する威厳を保つために外しちゃえよ』と、悪魔が囁いてくることすらない。
この辺の強い高潔さこそ、UV1がUV1の地位にまで上り詰めることができた理由。
彼女は、基本的に『言動の性質』が強く刺々しい上、若干、男を見下している節があるため、同格前後の異性と喧嘩に発展することも、稀によくある、ちょっと厄介な女の子……だが、『魂の美しさ』に関してはガチ中のガチ。
「ぅ……」
消え失わないよう、かなり頑張ってはいたのだが、最終的には気絶してしまったUV1。
そんな二人の元に、
――『虹色の龍』が、這い寄ってきた。
「……何が何だかわからないが、勝手につぶしあってくれたようで僥倖。気絶している今のうちに食わせてもらうぞ」
そう言いながら、
アモンとUV1を食べようとする、
この森の主、レインボー・ネオドラグーン。
その牙が、アモンを捉えようとした、
その時、
「まあ、落ち着けよ、ボーイ。まだ慌てるような時間じゃない」
どこからともなく瞬間移動してきた男に、
指一本で動きを止められる、超王級の龍。
警戒心、憤怒、危険視、邪推、驚愕、嫌悪、
そのどれかしらが発動してしかるべき、
この極端な場面で、
……龍は、
「!!! っ……う、ぅう……うぅううう」
ただ震えていた。
自分を『指一本で止めている男』のオーラが、あまりにも凶悪すぎた。
『現状の龍』の『心境』は、例えるなら、
『クトゥルフ神話で、アウターゴッドを前にした一般人』みたいなもの。
秒の発狂。
恐怖で魂が凍りついた。
フっ……と、そのまま意識を失い、気絶のターンに入ろうとする龍に、
「神の慈悲」
心をも回復させてしまう魔法をかけることで、気絶すら許さないという高度なパワハラを決め込んでいく狂気の閃光。
意識をとりもどした龍に、
狂気の閃光センエースは、
「俺の前では気を失うことすら容易じゃない。わかったかな、ワンダーボーイ」
心をとりもどした龍だったが、
すぐにまた恐怖で魂がガクガクと震え始める。
どうにか体を動かして、ひれ伏すポーズをとり、
「じ、慈悲を……」
と、許しを乞うてくる龍に、
センさんは、
「慈悲ならくれてやっているだろう? お前は俺の家族を食おうとしたんだ。もし、それが悪意によるものだったなら、お前は俺に知覚されたと同時に死んでいた。お前の行動の起因は、悪意や食欲ではなく、この森周辺の均衡を保とうとしたが故の、責任感からくるソレだったから、流石に殺すのもアレかなぁ、と思い、こうして生かしてやっている。これが慈悲以外のなんだってんだ。……己の現状が理解できたかな? ワンダーボーイ」




