73話 なかよくすればいいのに。
73話 なかよくすればいいのに。
「UV1、あんた、いちいち、言い方が腹立つんだよ。自分が上位者だって意識が強すぎる。まさか、僕を躾けようとでも思っているのか? 冗談じゃない。僕は、あんたより若いが、ゼノリカの天上に誰よりも近い超人だ。努力の密度で言えば、あんたより上なんだ。あんたから教わることなんて別にない。上位者目線で嗜めてくるな。さっきからずっとそうだが、僕は一度として、何も、間違ったことは言っていない。あんたの意見とは異なるかもしれないが、それだけだ。何が『遊びにきたわけじゃない』だ! 侮辱するのもいい加減にしろ!」
「境界線を超えたぞ、アモン」
UV1は、バチギレの顔でアモンを睨みつける。
そして、
「つけろ、アモン」
そう言いながら、UV1は、アモンに、指輪を投げつける。
その指輪は、存在値が300で固定になるアイテム。
……今回のミッションにおいて、『基本的』には、自分の力量で、存在値をコントロールしていくのがルール。
それも修行の一つだから。
ただミッションこなす中で、あまりに『自力で存在値を制御するのが面倒臭い場合』や、『絶対に制限を超えてはいけない状況』などで身につけるように言われているもの。
UV1の意図が理解できたアモンは、
迷わず指輪をつけてから、
オーラと魔力を捻り上げていく。
「楽連の武士全員が、搦手を苦手としているなんて思わない方がいいですよ、UV1」
あえて慇懃に闘志をぶつける、という形の煽り。
そんなアモンに対し、UV1は、
「格下の貴様相手に搦手など使わない。正面から殴り倒して、躾してやる」
「一流の挑発ですね。心にグッときましたよ」
その言葉を最後に、両者は踏み込んだ。
「「閃拳!!」」
他のどんな精巧な必殺技も、
この一撃の『底力』には敵わない。
もちろん、状況に応じて、『最善手』は異なる。
敵を殺すための『最善手の追求』という視点でいえば、ここでの閃拳は間違い。
ただ、『互いの信念を遵守し、まっすぐにぶつかる必要がある現状』において、閃拳は、絶対的に必要な一手。
互いの拳が、互いの顔面に直撃。
回避しようと思えばできなくもないが、ここでの回避は『信念』の敗北。
ゆえに許されない。
誇りをぶつけ合う喧嘩において、芯の揺らぎは死よりも重い惨敗。
「神速閃拳」
「深淵閃風」
あえて、『センエースの必殺技』だけで相手の心を折ろうと必死の二人。
そこにある矜持は、神への想い。
論理的な理屈は一ミリも介在しない。
『自分の方が主を適切に愛しているんだい!』
という、自己主張・自分語りに他ならない。
無駄に魔法やスキルを使ったりせず、ボッコボッコと、純粋な肉体言語オンリーで殴り合っているUV1とアモン。
そんな二人の様子を遠くから観察しているデバガメが一人。
UV1とアモンが殴り合っている原因。
――舞い散る閃光センエースは、
ぼそっと、
「転移早々殴り合いかよ……百済と楽連って、ほんと仲悪いなぁ……」
などと、呑気なことをほざきつつ、
小指で耳の穴を掃除している。
「ケンカの原因が何か知らんけど、なかよくやればいいのに。その方がいろいろ楽なのに」
デバガメはしているが、盗み聞きはしていない。
今回のセンは、『雑な監視』にとどめている。
だから、二人の怒りの原因を理解していない。




