65話 なんでも一つだけ、言う事を聞いてあげる。
65話 なんでも一つだけ、言う事を聞いてあげる。
「んー……そうっすねぇ……『すべての世界を統治する』とかが、現実的なラインじゃないっすかねぇ。すべての命を支配下において、その信仰を一身にうければ、センセーの神気が爆上がりするから、もしかしたら、あるいは、なんかの間違いで、届くかもしれない可能性もゼロではない気がしなくもないっすよ」
「個人的にめちゃくちゃ嫌なことやらんといけないのに、可能性は、限りなくゼロに近そうだな……泣きたくなってきたぜ」
「もし、それで原初の世界に届かなかったとしても、強くなればなるほど、手段は増えるから、『次の一手のため』の『布石』としては最善だと思うっす」
「……結局、そこに帰結するか……今、ゼノリカの上層部が、『すべての世界の人間に俺を信仰させようとする、ディストピア計画』を進行中なんだが……それを、俺が自ら推奨しないといけない事態に陥りそうだな……」
「それ以外で何か思いつくなら、そっちでいいと思うんすけど、思いつかないんなら、こっちをやるしかないんじゃないっすか? それとも『信仰されるのは嫌だ』とかいう、個人的な感傷だけで、可能性を棄てるんすか? ボクとしては別にそれでもいいんすけど、じゃあ、さっきの『ヒーローになってやる』と言ったのは何だったのかって問題が発生するっすけどねぇ。あれって、ただの虚勢っすか? それとも、本気の虚勢っすか? ねぇ、ねぇ、センセー、どっちっすか? ねぇ、ねぇ」
「うるせぇ、煽るな。俺はワガママで自己中な性悪だが、自分の発言に対する責任感だけは、そこそこ仕上がっている、なかなかのいい男なのだ。やってやるよ。完璧なトゥルーエンドに到達してやる」
「その心意気や良し。センセーを、比較的マシな男として、正式に認めてあげるっすよ」
「……嬉しくて涙が枯れるねぇ」
「もし、センセーが、宣言通り、完璧なトゥルーエンドに到達できたら、このボクが、何でも一つだけ、いう事を聞いてあげるっす」
その言葉を聞いたセンは、目をカっと開いて、
「ん? 今なんでもするって言ったよね?」
「言ったっすよ」
「その言葉、忘れるなよ。もう取り消せねぇからな」
「もちろん」
「くく、天才美少女がアホのモブ男に言ってはいけないセリフ第一位を口にしてしまうとは、お前はもう終わりだな。俺ごときじゃたどり着けないと思っているのかもしれんが、甘い、甘いよ。甘いと言うか、もはや下手だなぁ、星桜くん。へたっぴさ。推測の立て方が下手。俺の執念をナメちゃいけない」
「別にナメてないっすよ。……ちなみに、トゥルーに届いた時、ボクに何を要求するつもりなのか、先に教えてもらってもいいっすか? 色々、準備しておきたいんで」
柄にもなく、ドキドキしながら、
その質問を投げかける星桜。
もちろん、相手が何を言うか、完璧に予想できている。
もう、これまでの対話で、お互いの好意は確認しあっている。
互いに互いが惹かれていることを、お互いが了承済み。
その上で、『なんでも一つ言うことを聞く』と言えば、
もう、要求されることは一つしかない。




