63話 面倒くさすぎる、狂った高潔。
63話 面倒くさすぎる、狂った高潔。
「勘違いするな。お前のために俺が何かをすることはない」
「もう、ほんと、エグイぐらい、ずっと口説いてくるっすね。さすがに、お腹いっぱいなんすけど」
お腹はいっぱいだが、しかし、それでも、欲しくなる。
愛の欲望の前で機能する自制心など存在しない。
「てか、リアルの世界で、『勘違いしないでよねっ』って言う人がいるとは驚きっす」
「そのテンプレがあるせいで、本当に勘違いしてほしくない時に使える言葉がなくなっちまった。俺みたいな、勘違いされやすい人間にとっては窮屈な時代になっちまったぜ。言うまでもないが、さっきのセリフは、『勘違いしないでよねっ』じゃなくて『え、ほんと、やめて……勘違いしないでください、お願いだから、キモすぎ』という、『女子中学生がマジでなんとも思っていないカースト下位の男子に向けるタイプのガチトーン』のやつだ」
――『おそろしく面倒くさい男』と、星桜は、辟易するほどに強く、そう思った。
センエースの狂ったような高潔は、どんな毒よりも強く、星桜の心を浸食してくる。
センは、星桜に対して、さらに、
「お前のために、過剰に何かをする気はないが、しかし、神の王として、お前のヤバさを称えないわけにもいかないって事情もある。心情の問題ではなく、あくまでも、立場の問題だ。……お前の、世界に対する過剰な献身、狂気的な高潔……敬愛に値する。だからこそ、俺はお前の心を尊重してやった。お前は、自身の病的な献身を、親戚連中にはバレたくないと思っているんだろ? その心、今後も大事にしてやるよ」
「……」
「星桜、お前の献身は美しい。第一アルファにいる人間の中では、ぶっちぎりで、貴様がナンバーワンだ」
「献身なんかしたことないっすよ。……話を聞いていると、どうやら、色々と誤解があるみたいっすねぇ」
「誤解? 俺は、お前の、どれを誤解している? 命がけで戦争を止めてきたことか? それとも、犯罪者から巻き上げた金を孤児院にばらまいたことか? それとも、エネルギー問題のことかな?」
「全部っすね。それらは全部、慈愛とか献身とか、そういう概念を下地にはしていない。病的な高潔は、センセーだけの特権っすよ」
「無償で、あれだけの偉業をかましておいて、献身でも慈愛でもないときたか。また、ずいぶんと無理のあるジョークをブチ込んできたじゃねぇか。詳しく聞かせてみろよ。鼻で笑う準備は出来ているぜ」
「ボクのは、センセーのソレと違って、ただの呪いっすよ。衝動に逆らえない呪い」
「……ほう」
「命も世界もどうでもいい。それがボクの本音っす。けど、頭の中で、頻繁に、訳のわからん衝動が暴走して、気づいた時には、色々とやっちゃっているんすよ。気分悪いっすよぉ、これ、まじで」
照れ隠しなのか、
それとも本音なのか、
彼女の表情が難しすぎて、
センには解読できなかった。
「確かに、お前の頭には、強い呪いが仕込まれていた。その呪いは、さっき回収……消滅したわけだが……となると、お前は、もうその衝動を失っていて、世界に対して何かしら献身しようとは思わなくなった感じか?」
「やっぱ、ボクの呪いを奪ったんすね。体、大丈夫っすか?」




