50話 おそろしくはやい切腹、その2。
50話 おそろしくはやい切腹、その2。
「うちのバカ一族に対して、主が確執を抱えたままやったら、親族である妻にも被害が及ぶ可能性がある……その可能性を少しでも減らすためなら……ワイはなんでもする」
「狂った覚悟だ。気にいった……とまでは言わないが、『おもしれー男』という評価ぐらいは下してやる」
そこで、センは、手の中に、一枚の紙を顕現させる。
そして、もう一方の手の中に、ナイフを具現化させると、
自分の腹に突き刺した。
「っ?!」
この場にいる誰もが驚く。
何をしているのか分からず動揺する。
そんな彼らの感情を置き去りにして、
センは、ナイフを消すと、自分の腹から溢れる血を親指で拭って、
そのまま、先ほど顕現させた紙に拇印を押した。
「……受け取れ、田中・イス・権豆。……俺がお前らの無礼を正式に忘れるという内容の宣誓書だ。以降、俺の誓いを疑うことこそが何よりの不敬だと知れ」
誓約書を受け取った権豆は、
紙と神、交互に視線を送り、
「……しゅ、主よ……なぜ、主まで、切腹を……」
「お前の覚悟に対するカエシだ。『不届きには、不届き』を、『本気の覚悟には、本気の覚悟』を返す。それが俺の『仕事の流儀』だ。実にプロフェッショナルだろう? 伊達に200兆年も、この仕事やってねぇから、メソッドの磨かれ方も一味違うんだわ、これが」
「……」
「ゴンズさんよぉ。てめぇも、底意地とクソ根性に自信があるっぽいが、俺にゃ勝てねぇよ。てか、この俺様を相手に根比べを仕掛けてくるとか……ふっ、まったく、ヤムチャしやがって。自覚しな、ボーイ。お前さんは、まだ常識という浅瀬でパチャパチャしているだけのお利口さん。世界中のサイコが震えて眠らざるをえない『俺のワンパクなキチ〇イ無双』は、ダンダン心惹かれていく摩訶不思議アドベンチャー。さあ、俺の罪を数えな」
ちょっと何言っているか分からなかったが、
しかし、言葉の意味はよく分からずとも、
とにかくすごい自信だということだけは痛感できた。
だから、ゴンズは、
「長く……神を信じずに生きてまいりました……いえ、神がおったとしても、それほど大した存在ではないやろう……と侮っておりました……」
「その認識に間違いはねぇよ。根性には自信があるが、それ以外はからっきし。それが、俺という愚神。考えることをやめた脳筋サイコパス、舞い散っているっぽい閃光センエースさんだ。こんなしょうもない男を崇め奉れとか、そんな無茶を言う気は毛頭ねぇ。バカにして結構。見下される理由が俺にはある。だが、それを、露骨な態度には出すな。その辺のアレコレは実質どうこうではなく、人間関係の話だろ。大事なビジネスの現場で、取引先のハゲてる頭を指さして、『ハルマゲン、ぴぎゃー』とか笑いだすのは、人間として終わっているだろ。それを注意したってだけの話さ。……というわけで、はい。この話終わり」
ゴンズの雰囲気から、ちょっとヤバそうな空気を感じ取ったセンは、『自分下げ』のターンにシフトしていった……が、時すでにお寿司。
「主よ、この愚かな老人めを、主が支配する組織の末端に加えていただきとう存じます。これまで、ずっと、妻のためだけに、命を磨いてきましたが、今日からは、主のためにも、この命を燃やしていきたいと考えております。ワイの本気の忠義……どうか、受け止めていただけまへんやろか」




