46話 暴走するロマンチック乙女エンジン。
46話 暴走するロマンチック乙女エンジン。
「俺の横に立つには、条件が足りない。もし、お前が、オメガ無矛盾アートが有する不可謬性の完全証明に成功したあかつきには、お前とのあれこれも考えてやろう。どうだ?」
これなら、『そんな無理をいうやつはゲロキモすぎて無理』と嫌われるだろう、
と、浅すぎることを考えているセンさん。
スイセイは、
「……」
銀河にも等しい膨大な思考で頭の中を埋め尽くす。
本物の芸術家だから理解できる。
完全なる美の証明など不可能。
それは、もはや、神様のパラドクス。
なぜ不可能なのか……その完全証明が出来るだけの明確な知識があるがゆえに、彼女は、すぐに答えを出せなかった。
しかし、『難しいから』という理由で諦めるほど、
彼女の中のロマンチック乙女エンジンはヤワじゃない。
(……不可能を可能にするぐらいやないと、神の妻にはなれへんか……)
そんなことを心の中で思ったスイセイは、
グっと、目に力を込めて、
「かしこまりました。その無理難題……果たしてみせましょう」
と、まっすぐな目で言われてしまったセンさんは、
あわてて、
「っ……違う、違う、違う!」
「は? どういうことでしょう? 違うとは?」
「やばい条件を出す糞クライアントになってマイナス評価を頂戴しようと思っただけだ。不可能な条件をエサにして、無意味な人生浪費をさせる気はない。俺はかぐや姫じゃないんだ。もし、お前の想いが、本気なのであれば、それを、イタズラにもてあそんだりはしない」
「……」
「今のお前の目と覚悟を見て分かった。お前は、どうやら『目的のためなら手段を択ばない精神の異形種』らしい。おもしれー女だ。その希少性は評価にあたいする」
などと、どうでもいい言葉で間を繋いでから、
心の中で、
(いくら『神王の権利の半分』という地位が欲しいからって、そこまでのイカれた覚悟を示そうとするとは……さすが、田中家の連中は格が違う。それだけの覚悟があるのであれば、大きな何かを果たすこともできるかもしれない。実際のところ、スイセイが『何』を求めて『神の隣』を望んでいるのか知らんが……そんだけ覚悟が固まっているのであれば、その『何か』を叶えてやるのも悪くない)
そうつぶやくと、
「正式に約束してやる。『俺から報酬を与えられること』を前提とした『完全なる美に挑戦すること』を許可する。もし、失敗しても、本気で挑んだ結果であるならば、お前の本当の望みを必ず叶えると約束する。結婚どうこうで、俺を利用しようとする必要はない。お前が望むものを、俺が必ず与えてやる。だから……やってみろ。そして、その結果を見せてくれ。お前ほどの狂気を孕んだ目をした女が、本気で挑んだ『完全なる美』……興味あるね」
不可能を前提としたエサではなく、
リスクを最小限に抑えた挑戦を要求するセン。
それは、スイセイの覚悟を認めたからこその啓示。
それを受けて、スイセイは、
「もったいない御言葉」
『自分が妻として認められた』と解釈した。
その認識は、まったくもって誤解なのだが、
しかし、ロマンチック乙女ゲージが振り切ってしまったスイセイは、もう止まらない。




