29話 神のパワハラ。
29話 神のパワハラ。
「気絶で逃げられると思うな。舌噛んで死んで逃げられると思うな。世界の真理を教えてやる。大魔王からは逃げられない」
全員の魂が凍る。
センエースの怒気がギャグではなくガチだと、全員が、すでに理解しきっている。
「さあ、どうした。気軽におしゃべりしろよ。俺をナメて無視して、勝手に、家族同士でお話して、わーきゃーと盛り上がれよ」
言葉の端々から、『センエースが、これまでの自分達の態度に対し、本気でキレている』と、皆が理解する。
シンと静まり返っている現場に、センは爆弾を投下する。
「……えっと、確か、俺を解剖したいんだっけ、田中・イス・羽波さんよぉ。いつにする? いつ、俺をメスで切り刻む? なぁ?」
「……も、もうしわけ――」
「あぁん?! なんてぇ?! いつ解剖したいってぇ?! 聞こえねぇ!」
恐怖のあまり失神しかけて、何も言えなくなっている母を見て、
息子の吾雲が、立ち上がり、
「神様、すみません。母の無礼を、どうか――」
と、慈悲を請うとしてきた彼に、センは、
「勝手にしゃべんなぁああああああ!! 挙手してから喋れっつったろぉがぁああああ! どんだけ、人の話、聞いてねぇんだ、てめぇえええ!」
「……」
「ちょっと賢いってだけで、よくもまあ、そんだけ、人様をナメられるもんだな。てか、お前ら、本当に賢いのか? お前らなんざ『俺の鼻息で吹き飛ぶ程度の虫ケラ』……『その程度の事実すら理解できない頭脳』で、よく賢人を名乗れんな。もし、今、この状況を、世界中に生中継したら、コメ欄は、お前らの馬鹿さ加減を笑うコメントであふれかえっていると思うぜ」
「……」
「で、次ぃ……おい、田中・イス・秀明」
「……」
「返事しろや。殺すぞ、田中・イス・秀明」
「……はい」
「まず、最初の疑問。お前……ガキじゃねぇよな? 分別がついてしかるべき年齢に達した『いいオッサン』のくせに、なんで、俺に、ため口きいた? たかが『現世の中では小マシ』ってだけの下等生物が、神界の深層を統べる王である俺に……なぜ、ナメた態度をとれた? 知性ゼロか? 無脊椎動物なのか? 俺からすれば、お前の方がよっぽどチンパンジーなんだが。てか、チンパンジーに失礼。チンパンジーに謝れ」
「……」
「自分のバックボーンが可哀そうだから、多少はナメた態度をとっても許されるとでも思ったか? どんだけ甘えくさった考えで人生やってんだよ。お前の人生なんか知るか。こちとら、てめぇが受けた苦痛の天文学的数字倍のしんどさを積んで、ここに座ってんだ。てめぇよか、俺の方がよっぽど可哀そうなんだよ。ナイトメアマストダイな人生を生きる俺の苦悩がお前に分かるか? 惨めさでも、無様さでも、俺の方が遥かに格上なんだよ。てめぇごときにナメられるほど、俺は小さくねぇんだ、わかったか、カス」
「……」
「あと、田中・イス・玲南」
「……は、はいっ」
「てめぇも、まだガキだから許されると思ったなら、認識を改めろ。200兆年以上生きている俺の視点では、百年前後で死ぬ第一アルファ人は、もれなく、生まれたばかりのクソガキだ。さすがに、よちよち歩き以下の幼児は話が一個別だが、十歳以上は全員同じ。十数歳も、数十歳も、俺の視点では大差ない。全員、等しく、虫ケラ以下の下等生物でしかない。俺がその気になれば、100億人のお前が束になって頭使っても、秒で吹っ飛ばせる。知力なんて、暴力の前では飾りです。平和ボケした日本人にはそれがわからんのです」




