26話 静かなる神。
26話 静かなる神。
「俺も、今のままでは力にはなれない。というわけで、携帯ドラゴンとやらを、俺にくれないか? そうすれば、何か、あんたにとって有益なヒントらしきものが見つかるかもしれない。というわけで、さあ……くれ」
挙手もせず、勝手な事を言い出した田中・イス・秀明。
そんな彼の気ままな発言を受けて、
センは、
「……」
黙ったまま、まっすぐな目を、彼に向ける。
ちなみに、ここにいるイス田中のバックボーンに関して、事前に、トウシから教えてもらっているので、だいたいのことは把握している。
とはいえ、全ての情報を丸暗記しているわけではないので、
センは、トウシが用意した田中家詳細資料をチラ見して、
(こいつは、ええと……ああ、出生だけで言えば、トップクラスにやべぇやつか……で、シグレをイヤイヤひきとったやつ、と……)
田中家の面々は、全員、『特殊な個性』を持っているが、
その中でも、異端度で言えば、かなり上位。
――それが彼、田中・イス・秀明。
……センが黙っていると、
秀明は、続けて、
「携帯ドラゴンだけではなく、ほかの『究極超神器』とやらも欲しいところだな。夢のようなアイテムを、たくさん持っているんだろう? うまく活用して、あんたの助けになってやるから、それをくれ」
「はー、なにそれ! ズルいんやけど! それやったら、あたしもほしい。携帯ドラゴンだけでええから、ちょうだい! できれば、かわいいやつ!」
秀明の横暴に続いて、
小学生ぐらいの美少女が、同じような横暴ぶりを発揮する。
彼女は、
田中・イス・玲南。
12歳、小学六年生。
トウシの、みいとこ(トウシの高祖父の妹のひ孫)。
秀明とは打って変わって、平凡な生まれの田中。
産まれは平凡だが、知性と美貌に関しては、田中家全体の中でも最上位。
総合力や将来性は最高格で、『田中家歴代女性の中で最高傑作』とも言われている期待の新星。
シグレも相当な美少女だが、レイナはそんなシグレを超えている。
仮に、秀明の知性レベルを10とした場合、玲南は37ぐらいある。
『玲南・37』、
『吾雲・26』、
『奈楽・23』、
『星桜・30』、
『裏介・35』、
『東志104』、
『斬九39』。
『時雨3』
『壱番2』
田中家全体の平均は12ぐらい。
ちなみに、普通の人が1~3で、東大理三に入れる人間が5~6ぐらい。
田中家は異常。
その中でも、トウシは特に異常。
『玲南の同年代連中』は、田中の歴史の中でも、『際立って優れた世代』と呼ばれている。
単体でみれば、彼・彼女らに匹敵、あるいは超越している者もチラホラいるが、『平均を大幅に超えたメンツが何人もそろう世代』というのは、この代が初めて。
彼女たちの世代のことが話題になる時、『同世代で、かつ、正式にイスを名に持ちながら、凡人でしかないシグレ』が、『異質な無能』として鼻で笑われるまでがセット。
玲南は、まだ『パートナー』も『興味のある分野』も見つけていないが、それは年齢の問題であって、『はなから見つける気がない秀明』とは根底的に異なる。
ちなみに、レイナは、その気になれば、飛び級で、どの大学でも入れる。
が、ハーバードやMITふくめ、どの教育機関も、
『今通っている小学校と同じレベルの猿しかいない』
と思っているので、『飛び級とか別にいい』となっている。
※ 田中家の面々は、『学校に通う』という行為を、『一般人の知性レベルの低さを正確に知っておくための集団生活の経験(周囲の人間を田中家と同じように考えると、あらゆる意味でトラブルの原因になるため)』としてとらえているため、『学校なんて無意味だから行かない』とは基本的にならない。『親戚以外は、みんな猿だってことは分かったから、もう行かない』という思春期なことを言う者もいるが、基本的に、みな、学校を経験しておく。『何十人、何百人、あるいは何千人という膨大な数の同年代と集団行動を余儀なくされる』という経験が、長い人生の中で、どれだけ希少であるか理解する知性があるから。
――どこの学校も猿しかいない、という、『この視点』は、レイナだけの特別ではなく、他の田中も、みな、同じように思っている。
『わざわざ、治安の悪い海外に出て、チンパンジーと机を並べることになんの意味が?』
というのが、田中家共通の認識。
どうしても海外でなければ学べないこと、やれないことがある、という特殊な状態でない限り、基本的に、田中家の面々は、安全で衛生的で水と飯の質が高い日本から出ない。
……もはや、言うまでもないが、田中家の面々は、普通に、みんな性格が悪い。
トウシだって、クラス内の一般ピーポーに『なんだ、あいつ』と陰口をたたかれるレベルで性格は悪い。
中には、『だいぶまっとうな人格者』も、いるにはいるのだが、基本的に、田中家の面々は、周囲の下等生物を『なんでそんなに猿なの? バカなの? 死ぬの?』と見下している。
ただ、これは、仕方がない話。
例えば、周りに、『二ケタの引き算が難しい』と頭を抱えているバカしかいないと想像してほしい。
『20引く10は?』
『うー、わからないぃ……』
周りの人間全員が、こんな感じ。
その光景を見たら、
『マジか、お前ら……何がわからんの? どうしたら、これが分からんってことになる? これ、もはや、一桁の引き算やん。2引く1やん』
となるだろう。
それに対し、
『え? なんで、これが一桁の引き算になるの? どういうこと? どういう方程式? え、てか、なんで、君は、そんなに一瞬で複雑な計算ができるの? すごい! 君は天才だ!』
と、返されるみたいなもの。
『やべぇ、こいつら、バカすぎる……猿以下……』
と、呆れてしまうのも、田中家の視点では仕方がない話。
「携帯ドラゴンをくれるなら、あたしも、出来る限り、協力してあげる。あたしに協力してもらえるなんて、ラッキーやね、顔面偏差値ザコのおにーさん」
狙っているわけでも、煽っているわけでもなく、
素の性格の悪さがにじみ出ているメスガキ、レイナ。
激烈に高い知性と、周囲から崇められるレベルの美貌。
どんなワガママも許されてきた、『全て』を持つ美しい麒麟。
そんな彼女のナメた態度に対し、
センは、やれやれと、首を横にふりながら、
「お前ら全員に、一個だけ……言っておく」
そこで、ついに、グググっと、オーラをとがらせていくセン。
携帯ドラゴン・ルナを装備している今、
第一アルファでも、問題なく、『力』を使うことができる。
「俺が力を求めたのは……ワガママを執行するためだ。自分の思い通りに生きるために、俺はアホほど努力して強くなった。『俺的に鬱陶しいクズども』を一掃できる力が欲しくて……俺は地獄の底で、最強という概念を、バカみたいに追及し続けた」
声を冷たく、低く、そして、重くするセン。
視線にも色をつける。
死線になっていく現場。
「周りが猿以下にしか見えないぐらい賢いなら……今、テメェらの状況が、どんだけヤベぇかぐらい、理解できんだろ? 次、この俺に、一言でもナメた口をきいたバカは、ワナワナボックスに閉じ込めて限界まで拷問する。殺しはしない。怒り狂った俺の前だと、『死』は『それ以上の苦痛を与えられない』という意味で、慈悲であると知れ」
バッチバチの神気を魅せつけられて、
その場にいる田中は、全員が目を丸くして、普通に背筋を凍らせた。
ここにバカは一人もいない。
だから、理解できた。
自分たちが、今、全世界で最も危ない猛獣の前に座っているということ。




