13話 冷めた視点。
13話目ぇえ!!
13話 冷めた視点。
多くの命が『センエースを愛すること』に没頭しているが、しかし、全員ではない。
第二~第九アルファに生きる者たちは、皆、記号ではなく、『一個の人間』なので、画一的に、全員が全員、センエースに対して同じ感情を抱いたわけではない。
『暴力的なほど深くセンエースを愛する者』が大多数だが、
中には、とうぜん、『冷めた視点』をもつ者もいる。
『まあ、まあ、うん、すごいけどね。ほんと、ありがたい存在だよ、センエース神帝陛下って王は。おかげで、ボクも、こうして呑気に生きていられる。感謝はしている。それはウソじゃない。ただ、ちょっと周りの連中の反応が過敏すぎて、ボクは正直、ちょっと引いている。いや、感謝はしているよ。すごい神様だし、守ってもらえたことは重々承知している。センエース神帝陛下に対して悪感情はない。……ただ、狂信者たちの異常すぎる熱狂ぶりをみていると、やっぱり引いちゃうんだよね』
――というスタンスの者もいる。
……以下、街中で、お茶をしている、とある『普通の一般男性』と『普通の熱狂信者女性』のカップルの対話。
「確かに、ボクも、センエース神帝陛下はすごいと思うよ……けど、君の熱量は流石に異常だと思う」
「違うわね。あなたが、冷めすぎているの。なぜ、そんなに冷静でいられるのか、私にはわからない。主がどれだけ――」
「いや、わかるよ。神様は、ボクら、弱い命のために頑張ってくれた。もちろん、わかっている。ボクだって感謝しているさ。けど……だからって、毎朝、毎晩、5時間も6時間も、主に祈りをささげるとか……それは、ちょっとやりすぎだと思うんだ」
「一日中、祈りをささげていたって、別にやりすぎじゃないわ。けど、祈るだけだと、主のために働けないから、時間を区切っているだけ。主のために、命と心の全てを奉げる。主のために働き、主のために生きて、主のために命を使う。それが、主に愛された私たちの唯一の恩返し」
「……そ、そんなことを、主は望んでいないと思うよ。主は、僕たちが幸せに生きられるように努力してくれたんだ。それなのに、君は、自ら、無意味に、自分の命を縛っているように見える……」
「あなたは、どうして、そんなに信仰心が低いの? 正直、私、あなたに対して、ドン引きしているのだけれど」
「そっくりそのままお返ししたいところだけれど……グっと我慢するよ」
一般男性は、冷静に深呼吸をはさんでから、
「ボクが少し冷めている……という意見は、受け止めるよ。確かに、比較的、冷めている方かもしれない」
「その通りよ。あなたはおかしい」
「おかしいかどうかはともかくとして……世界全体の『神帝陛下熱』に対して、一歩引いた視点で見ているのは事実……けど、そういう一意見を、異端として切り捨てようとするのは、本当に正しい行動なのかな?」
「理屈っぽいわね。あなたはいつだってそう。感情の赴くままに理解すればいい衝動に、わざわざ、言葉で固めた理屈を求めたがる」
「それが悪いことだと、ボクは思っていない」
「あなたとは価値観があわないわね」
「だからって別れ話に発展させようとするのはやめてくれよ。君だって、『主がそれを望んでいる』とは思わないだろう?」
「……」
「たくさん話し合おう……これは、そうすべき問題だ。誤解しないでほしいんだけど、ボクも、主を愛しているよ。それだけは、どうか理解してくれ」




