5話 地獄の軍勢。
5話目ぇ!
5話 地獄の軍勢。
「センくんを知らなかったら、絶対に無理だった。誰よりもセン君を知っている俺じゃなかったら、確実に、ここで終わっていた。感謝したいね、センくんに。まあ、この絶望を味わう羽目になったのは、センくんのせいだから、感謝するのもおかしな話なんだけれどね。……けど……そうだな……どうしても、感謝せずにはいられない」
そう言ってから、蝉原は、
「さあ、絶望を再開しようか……まだまだ地獄は始まったばかりだ」
「素晴らしいぞ、蝉原。貴様のその胆力に敬意を表し、特別な褒美を与えよう」
「へぇ、どんな?」
「センエースの記憶を拒絶した89名。センエースに対する反骨精神が尋常ではない、生粋のセンエースアンチ」
「そいつらを俺にくれるの?」
「ああ。回収してきて、貴様の中にぶち込んだ。自由に使うがいい」
「助かる褒美だね。手間が一つ減った」
そう言いながら、89人の中から一人をチョイスして、目の前に顕現させる蝉原。
「やあ、俺は蝉原勇吾。俺のことは覚えてる?」
「もちろん。我が王」
そう言って片膝をつく。
「……センエースを殺すための尖兵として、どうぞ、我らをお使いください」
「センエースのことは忘れたんじゃないのかな?」
「――記憶の消去を受け入れた者も、受け入れなかった者も、ひとしく、9億分の1を失っているだけです」
「ああ、そうなんだ」
「我が王。ご理解ください。……我ら一同、全員が、センエースに対し、『心から敵対する決意』を抱いているということを」
「ふーん。ちなみになんで? 俺が言うのもなんだけど、セン君は、君らも救おうとしたんだけど? 感謝の念とか、そういうのないの?」
「助けてほしいと頼んだ覚えはございません。善意の押しつけなど、不愉快なばかり。センエースの、あの、己の『特異な独善性』をひけらかして、民衆からの支持を集めようとする浅ましさには嫌悪感しかありません。あの正義漢ぶった面構え……思い出すだけでもヘドが出ます」
「正義漢ぶった面構え……ふむ……俺の目にそう映ったことはないけれど、そう思う奴がいてもおかしくはないな」
「叶うなら、この手で八つ裂きにしてやりたい」
「それは俺の仕事だから、絶対にやらせないけどね」
「理解しております。我らは、あなたさまの手先として、あの傲慢な怪物を殺す一助になれればと、そう願っている次第」
「なるほどね。ところで、君の名前は?」
「バルザリヤ・ルチアーノ・ロッキューともうします」
(……バーチャのフラグメントか なるほど。純粋悪意の権化ってわけだ)
バルザリヤがどういう概念であるか、その辺のあれこれを、秒で、正しく認識した蝉原は、
(それなら、まあ、使い方次第で、そこそこの道具にはできるかな)
どうやって使い潰そうか、
と、悪の親玉らしいことを考えながら、
頭の中で未来を構築する。
蝉原の長い戦いは、まだ始まったばかり。
『ここまで』でも、蝉原は、かなりの『永き』を積んできたわけだが、
しかし、本当に大変で濃密な時間は、ここから始まる。
これから、蝉原は、センエースに、『本気』でくらいつくための『悪の軍勢』を創り上げていく。




