3話 ほんの少しでもセンエースに近づきたい。
3話目ぇ!
3話 ほんの少しでもセンエースに近づきたい。
「ソル。流石に俺も、セン君と同じことができるとは一ミリも思っちゃいない。言われるまでもなく、200兆年は無理だ。ソレは流石に不可能。100兆も無理だね。50兆も厳しい」
そこで蝉原は、数秒ほど熟考してから、
「追加で17兆……合計20兆。セン君の10分の1……才能差を考えると、そのぐらいやればどうにかなると思うんだけど、どうかな?」
「完全なる自力で17兆年も積めば、確かに勝てる可能性はある。しかし、貴様では絶対に耐えられない。貴様が耐え切れる時間の限界は250万年だ」
「ソレは、『センエースが200兆年を積んだ』という事実を知らない俺の限界だろう? そして、『3兆年を積んだことがない俺』の話でもある。……人間の成長を……俺の進化をナメるなよ……ソル」
★
蝉原は、本気だった。
センエースの尊さ、輝き、深みを、その身で受け止めた蝉原は、『ほんの少しでもセンエースに近づきたい』という激しい憧憬を胸に、必死になって、理想の未来を奪い取ろうと頑張った。
センエースを除けば、他の誰にも真似できない領域で、蝉原は、己を磨き続けた。
何度も、何度も、頭おかしくなりかけて、それでも、奥歯を噛み締めて、必死になって、時間地獄と向き合い続けた。
★
……完全なる自力で『2億年』を積み上げたところで、蝉原の体は、半分、灰になっていた。
ギリギリのところで命を繋いでいるが、風前の灯。
そんな蝉原のザマをみながら、ソルが、
「……よく頑張った、蝉原。自力で二億年も積める人間は、センエースを除けば貴様ぐらいだ。本当によく頑張った。もう十分だ。……だから、もう……おやすみ」
そう言って蝉原の最後を看取って、
弔おうとするソル。
――半分灰になっている蝉原は、
「は、ははは」
ギリギリ残っている意識を奮い立てて、不敵に、悪役らしく黒く笑って、
「たった2億でこれか セン君は、すごいな」
かすれた声で、パラパラと、上半身の灰をこぼしながら、
「これの100万倍……ふ、ふふ……すごいな……狂っているよ……『正気の沙汰じゃない』とか、そんなヌルいレベルじゃない……どうなっているんだろうね、セン君の根性ってヤツは……俺だって、根性には自信があるのに……俺の根性は、世界最高クラスのはずなのに……その俺が、比べると、ゴミに思える……ふ、ふふ……」
蝉原は天を仰いで、
「……2億年でも、すごく長かった……すごく長かったんだよ……もし、この『2億年という地獄』の『倍(4億年)』を積める人間がいたとしたら、俺はその人を心底から尊敬する。……もし、この2億年という地獄の『10倍(20億年)』を積める人間がいたら、俺はその人に、永遠の忠誠を誓ってもいいとすら思える。もし……この2億年という地獄の……100万倍を積める人がいるとしたら……ふ、ふふ……俺は、その人に、どんな感想を抱くんだろうか……わからないや。わからないよ。わかるわけがなかった……敬愛、崇拝、心酔、狂信……違うね。そんな安い感情じゃない。もっと、こう……もっと……深く、俺は……」




