1話 蝉原の復讐。
今日の1話目ぇ!!
1話 蝉原の復讐。
『ここではないどこか』の深淵で、
バチっと目覚めた蝉原は、
バっと顔を上げて、
「ふぅ……」
と、ため息をついてから、
「さすが、センくん。最強だ。なにもかも。……まさか、200兆年も積んでいたとは」
ぼそっとそうつぶやいた直後、
蝉原の『影』から這い出てきた破壊衝動ソルが、
「センエースが最強なのは最初から分かっていた。あの異常奇行種は、この世で最も愚かで、そして、最も尊き生命体」
まずは、前提を口にして、
そして、
「この世に並ぶ者がいない、圧倒的に最強の武神センエースと、貴様は、真っ向から戦い、正式に敗れた。その『真っ当な敗北』ができるものは、この世で貴様だけだ、蝉原勇吾。――あのセンエースを相手に決して一歩も引かなかった胆力。オクタプル(八重)神化に届いたポテンシャル。貴様は本当に素晴らしい。センエースさえいなければ、間違いなく、貴様が最強の生命体だった」
「ありがたい評価だね。まあ、セン君以外から褒められても、別に嬉しくないけど。俺はもう、セン君以外の言動に興味をもてないから」
「極端な思考形態。それでいい。それでこそ、センエースの対抗馬に相応しい」
そこで、ソルは、声のトーンを変えて、
「ところで蝉原、私の目には、貴様が、まるで『できるだけセンエースが民から崇められるように全力でピエロをやっていたよう』にしか見えなかったのだが、この認識は間違っているか?」
「いや、間違っていない。俺は、セン君が人気者になるように頑張ったよ」
「なぜそんなことを? 貴様はセンエースの敵でなければいけないのに」
「あれは『センエースに対する最大級の敵対行為』だよ。というか陰湿な復讐だね。セン君にとっては『死ぬこと』なんかよりも『全人類から持ち上げられる方』が、よっぽど大きなダメージだろう? 俺は、『今の俺じゃ勝てない』と分かった段階で、知恵を振り絞って、セン君に対し、『全力で、ド級の嫌がらせをブチかます』という方向にシフトした……それだけの話さ。セン君には散々っぱら『煮え湯』を飲まされてきたからね。『いったん負ける』にしても、『ただ負ける』なんて、そんなぬるい着地点で終わらせるわけないでしょ」
「ふむ なるほど。しかし、その結果として、センエースは莫大な信仰を受け、強大な力を手に入れてしまった。もはや、流石の貴様ですら、どう足掻いても太刀打ちできないほどに」
「そうだね。セン君は本当に大きくなった。とても美しい輝きだった……あの輝きは命の根底にある理想だ。全生命体が待ち望んだ、命の答え……それが、セン君だと、俺は思う」
「蝉原勇吾。貴様は間違いなく優秀だ。天才で努力家。完璧な人材。この世で唯一、センエースの対抗馬になれる男。だが、今回の一手に関しては悪手だったと言わざるをえない」
「そうかな? 俺はそう思わないけど」
「なぜ?」
「最終固有神化を経験できた。おかげで、俺は『センエースを殺せるイメージ』を明確に持つことができた。どのぐらい強くなればいいのか、それがハッキリと見えた。明確なゴールがあるのとないのとじゃ、モチベーションが全然違う。『どんなに遠くてもいいから、ちゃんとゴールは欲しい』と思ってしまうのが人のサガ。……あと、セン君の輝きを民衆に見せつけることで、『俺的に優れた人材』を見つけることもできた。第二~第九アルファには『89人』の反逆者がいる。この89人の濃度は半端じゃない。セン君の、あれだけの輝きを見ても、しかし、反センエースの反骨精神を剥き出しにできた者。その異常性、きっちり、俺の器にさせてもらう」




