13話 89人。
本日の1話目です。
13話 89人。
「とりあえず、ゼノリカの面々が、俺を見たらどういう反応をするか確認しにいくか。俺のことを完全に忘れているのか、それとも、多少は認識できているのか。 ――誰も覚えていないけど、シューリ、アダム、ミシャ、の三人だけは、俺のことを、ちょっとだけ思い出す……みたいな流れだと、だいぶエモいなぁ。そういうエンディングだったら、いい最終回だったと胸を張って言えるんだが、どうだろうか」
などと考えていると、
そこで、
ガチャリと扉が開く音が響いた。
ドアの向こうから顔を出したのはゼノリカが誇るゴリラ顔の警察庁長官、カンツ・ソーヨーシ。
(お、カンツじゃーん。お前は俺のことなんて覚えてないだろうなぁ。いや、案外、覚えていたりするのかな。んー、いや、まあ無いかな。普通に忘れていて、『ここでなにをしている。貴様は誰だ!』とキレられるのが、一番まるい予想かなぁ。さて、じゃあ、瞬間移動で逃げる準備でも――)
なんて、そんな、お花畑なコトを考えていると、
カンツは、厳かに、片膝をついて、
「我が唯一の神、栄えあるゼノリカの絶対的統治者よ。この上なく尊き命の王よ。果て無く美しき、全てを包み込む光よ。……第二~第九アルファに生きる全ての者が、あなた様のお言葉を待っております。さあ、こちらへ」
などと、吃驚仰天青天霹靂な寝言をほざくものだから、センさん的には、さぁ大変。
「ちょ、ちょっと待とうか、カンツさん。色々と言いたいことはあるけど、まずは、一番大事なこと……お前、なんで、そんな、はっきりと俺のことを覚えてんだ? おかしくね? ねぇ、おかしいよね? なんで? 俺、願ったんだよ? お前らの中から俺の記憶を消してくれって、ちゃんと具体的にお願いしたんだよ? なのに――」
「陛下」
「え、あ、はい。なんでしょう」
「二度と、我々から『陛下の記憶』を奪い取ろうなどと考えないでいただきたい」
配下からガンギレの顔で、文句を言われる命の王。
絶対的支配者のはずなのに、立場はいつも、下っ端以下な気がする。
「我ら臣下にとって、陛下に関する記憶は、命よりも大事な宝物。今後、二度と、わずかでも、絶対に、奪わないでいただきたい」
鬼の目でそう言われたセンは、
あまりの迫力にたじろぐことしかできなかった。
そんなセンに、カンツは、続けて、
「陛下がお眠りになられた後で、何が起きたのか、簡単に解説させていただきます。実は、願いを叶えたのは、陛下だけではなく、第二~第九アルファに存在する全ての生命なのです」
「すごいこと言ってんな 蝉原が言っていたことが、そのまま形になった感じか」
「とは言え、なんでも叶えてもらえるわけではなく、我々に与えられた選択肢は、陛下の願いを受け入れるか否か。その二択のみ」
「当然、受け入れてくれたよな? な? 俺の記憶なんかあっても邪魔なだけだもんな?! ねぇ! そうだと言ってよ、バーニィ!」
「信じられないことに、陛下の願いを受け入れた大馬鹿者が、89人もいたのです。正直、愕然としました。そんなアホがいるとは思っていなかったので。その89人に関しては、あとで早期発見・捕縛ののち、徹底的な再教育を施し、『陛下、万歳』しか言えない体にしてやろうと思っております」
「ははっ、おもろいジョークが言えるようになったじゃないか、カンツさん。しかし、お前ほどの立場にいるものが、その手のジョークを口にするのは感心できないなぁ」




