82話 切れ味鋭い小物臭。
82話 切れ味鋭い小物臭。
「俺の言葉に意味があると、いつから錯覚していた? そもそもにして、俺をどなたと心得る。畏れ多くも先のファントムトーカー、センエース公にあらせられるぞ。中身のない言葉で世界をケムにまく。それが俺の生き方じゃい。つまりは、俺の言葉に意味なんかあっちゃダメなんだよ」
「……意味があってダメだということはないと思うけれどね」
そう言いながら、蝉原は、グっと、腰を落として、防御の体勢をとる。
口にはしないが、『次は、君の番だよ』と暗につげている。
センは、そんな蝉原の顔面に向かって、
「爆竜閃拳!」
豪快な拳を叩き込む。
当たり前のように、蝉原の顔面を貫いていく、センの拳。
陥没ではなく、普通に顔面をぶち抜かれた蝉原は、当然、しゃべることもできなくなる……が、センが拳を抜いたら、すぐに脅威の生命力で顔面を再生させて、
「……凄いよ、セン君。本当に……君の戦闘力は常軌を逸している。クアドラプルを使っている俺の拳よりも、ダブルしか使っていない君の拳の方が間違いなく上。……君の武は……間違いなく全世界一だ」
「まあ、そりゃ、積み重ねてきた質量が違うからな。なんせ、俺は、お前の倍積んでいるから。『あの蝉原さん』の『倍』だから、そら、モノが違って当たり前って話よ」
「だね……間違いない。あの蝉原さんの倍となれば、それは、もう、とうぜん、別格さ」
などと、お互いに、無駄に見えて実は『普通に無駄な言葉』を交わし合ってから、
「お互いのシルエットは見えてきたね……じゃあ、そろそろ、本格的に始めようか。どっちの火が先に尽きるかという、純粋で無垢な命の奪い合いを」
「奪いあいだと? フハハハハ! 愚か者め! 貴様ごときが、この俺様に勝てるわけがなかろう! これから始まるのは、一方的な蹂躙だ! いまさら怖気づいても、もう遅いぞ! 貴様のはらわたをグチャグチャにすりつぶすまで、俺様が止まることはないのだ! ぐははははは!」
「すごいね。なんで、それほどまでの『果てなく尊き真の高み』に到っていながら、そんなにも『切れ味鋭い小物臭』を出せるのか……ほんと、不思議でならないよ。実績も中身も、絶対に、間違いなく、世界一美しい王なのに……ガワだけ見たら、君は、ドブネズミ以外の何物でもない」
「そもそも小物だからな。『スクールカーストの枠外』にはじき出されし無能な陰キャ。……そんな俺が、カーストの頂点であるカリスマヤンキーエンペラーに下克上のジャイアントキリングを叩き込む。それが、この物語の根幹だ。写真には写らない美しさの真髄を……教えてやるぜ」
そう言ってから、センは空間を駆け抜ける。
素晴らしい速度で距離を圧殺すると、
そのままの勢いで、蝉原の足を削ろうと、
「深淵閃風」
華麗な水面蹴り。
そのムーブが、シッカリと見えている蝉原は、丁寧に対応していく。
あえて、一度、足を払われた上で、
その勢いを利用するというトリッキーなカウンターをかましていく。
「ぶげへっ!」
蝉原の『だいぶダーティなトリッキーさ』に、ちゃんと翻弄されるセン。
かるく距離をとり、体勢をたてなおしつつ、
「蝉原。やっぱり、華があるな、お前には。……その瀟洒な輝き……俺にはないものだ」
「華やセンスは生まれつきだからね。もちろん、君の中には存在しないさ」
「出来のいい煽りだ。気に入った。殺す」




