57話 今の蝉原をぶつけたところで、なんにもならんからなぁ……
57話 今の蝉原をぶつけたところで、なんにもならんからなぁ……
「セン君が『200億年1万年』を積んだ、と初めて聞いた時は、そのあまりの数字に心底から驚嘆したもの。覚えているよ……『2兆年もの時間が経過した今』でも、ハッキリと……セン君のことを『世界で一番の、とんでもないバケモノだ』と思った。『絶対に超えられない怪物だ』とも。……でも、俺は超えた……セン君の100倍の努力を積んだんだ……」
「そう……だな……」
ソルは、力なく、返事をする。
蝉原は、何も間違ったことを言っていない。
蝉原は頑張った。
確かに、かつてのセンエースの100倍の努力を積んだ。
「最終的に、セン君は、合計1300億年を積んだわけだが、それを踏まえても15倍以上……ふ、ふふ……あの『狂気の努力家が、死ぬ気で積んだ、ほとんど永遠とも言える時間』の15倍。どうやら、セン君は、今も頑張って、7000億年を積んだらしいが、それを踏まえても3倍近く! そこからさらに積み上げていたとしても、1兆が限界だろう?! 仮に、2兆まで頑張れていたとしても、積んだ時間が同じなのであれば、天才である俺に、凡人の君は敵わない! ……は、はははははははははっ! ソル! 遠慮はいらない! 褒めてくれ! 称えてくれ! すごいだろう! 俺は! 俺が! 俺こそが! 蝉原勇吾! センエースを超えた者だ!」
「そう……だな……うん……お前は『7000億を積んだセンエース』を超えた。間違いない。すごいな。よく頑張った」
「喝采が、まったくもって足りないけれど……まあいいよ。ふ、ふふ……」
抑えきれない笑みを抱えて、
「さて……それじゃあ、セン君に会いにいこうか……驚くだろうな。今の俺を知ったら。どんな顔をするだろうか……ああ、楽しみだ……」
と、そんなことを言っている蝉原に、
ソルは、少し逡巡してから、
「……蝉原……」
「ん、どうしたのかな、ソル」
「あー、えっと……」
「ずいぶんと歯切れが悪いじゃないか。いったい、どうした?」
そこで、ソルは、渋い顔をして、
(仮に……あと1兆年……合計3兆年を積んだところで……無駄だ……これ以上ない『焼け石に水』……かといって、それ以上の年数は無理。それ以上は、私の修理スピリットがもたない……)
心の中で、
(どうせ無意味なら、いっそ、このまま、ぶつけてみるか……もしかしたら、実践の中で、『盛大に覚醒する』と言う可能性も……まあ、ゼロではないが……ゼロではないというだけだな……それに、もし、『実践の中での覚醒』を期待するのであれば、『下地』は出来るだけ積んでおいた方がいい……無駄だとしても……)
「おい、ソル。どうした」
黙り込んだソルに、蝉原は声をかけた。
ソルは、蝉原の問いかけをシカトして、
心の中での思案を続ける。
(あと1兆年、とことん追い詰めて、積ませて……そして、実践での爆発的な覚醒に期待……それ以外に、道はないか……)
そう結論を出してから、
ソルは、蝉原の目を見つめ、
「――『2兆年で終わり』だと、いつから錯覚していた?」




