40話 俺は君の隣を望まない。
5年連続毎日2話投稿記念、
コミカライズ版センエース、
「まんが王国」「コミックシーモア」「eBook japan」で配信されている記念、
1日10話投稿!
3話目!
40話 俺は君の隣を望まない。
――蝉原が、ここで修行を開始してから、9000億年が経過した。
現状、蝉原の意識は、遠いところに行っていた。
壊れたフリすらできない領域で、絶望感だけに支配されている。
強制的に、ひたすらに積まされた時間の中で、蝉原は大きくなっていた。
自分でも気づかないうちに、武のパッケージが底上げされていく。
本人的には、ずっとしんどくて辛くて苦しいというだけだが、元々の天才性も合わさって、どんどん強くなっている。
強制ソウルゲートなので、成長率には激烈なナーフがかかっているわけだが、しかし、それでもセンエース以上の成長率を見せる蝉原。
やはり天才は格が違った。
成長率で言えば、蝉原は確実にセンエースを超えている。
蝉原は頑張った。
灰化無効が働いていないと、とっくの昔に灰になっていた、というのは事実だが、しかし、『頑張って食らいつこうとしていた』のは事実。
蝉原は頑張った。
蝉原が、ここまで頑張れたのは、
『同じ時間を積めばセン以上になれる』という事実が、
蝉原の根底を支え続けたから。
センエースという概念を正しく知って以降、
蝉原の行動理由は、
基本的に、すべて、センエースである。
センエースならどう考えるだろう。
センエースならどうするだろう。
センエースに対抗するにはどうしよう。
センエースを殺せるとしたら、その方法はなんだろう。
――『センエースという概念を正しく知って以降』は、
ずっと、ずっと、ずっと、
センエースのことばかり考えている。
「……センくん……」
完全に朦朧しているという矛盾の中で、
蝉原は、むき出しの涙を流しながら、
「君は……美しいなぁ……」
特に意味のない言葉を口にする。
ただの感嘆符。
なぜ、今、センエースに対して、そんなことを想い、そんな言葉を口にしたのか、蝉原自身、まったく理解していない。
ただの生理的反射で、勝手に口をついて出た。
自分が、そんなことを口走った、ということに、
実のところ、蝉原は、気付いてすらいない。
蝉原は――
「……ああ……歪んでいく……ダメだな……こんなんじゃ……ダメだ……こんなんじゃ……君の……ラスボスには……なれない……」
ポタポタと、冷たい血が地に触れて、さまようように酸化して、静かにかたくなる。
そうやって、積み重ねてきた罪の断層。
ぶっ壊れて、歪んで、腐って、
そうやって、一つ一つ、積み重ねてきた罰の華。
「……俺は……君の隣を……望まない……」
生気のない目で、焦点のあっていない虚空とワルツを。
「俺が望むのは……君の敵……君の目標……」
最初から明確だった意志が、なぜか、ここにきて、ウスバカゲロウの羽みたいに、半透明の儚さを併せ持つようになってきた。
退屈なリズムのロンドが、不死身のロックンロールになったりして。
「君に追いかけられている時……君をへし折った時……その時だけ……俺は、真に幸福だった……」
『真の幸福』を得られる者は少ない。
命はワガママで偏執狂だから。
『本物』は、なかなか見つからない。
――蝉原は出会えた。
「ああ、そうだ……そうさ……それだけのこと……」




