31話 蝉原は知らない。
5年連続毎日2話投稿前夜祭記念、
コミカライズ版センエース、
「まんが王国」「コミックシーモア」「eBook japan」で配信されている記念、
1日10話投稿!
4話目!
31話 蝉原は知らない。
「センエースも、貴様と同じように、時の牢獄の中で、とてつもない時間をかけて、鍛錬を積んでいる。これは、センエースが鍛錬を開始してから7000億年が経過したタイミングの切り抜き動画。見れば分かると思うが――貴様の方が強い」
「……ああ……そうだな……これなら……勝てる……」
蝉原の目に、火がともっていく。
現金なもの。
わかりやすい男、
――蝉原は、グっと奥歯をかみしめて、
下半身に力をこめると、
「……俺が積み重ねてきた地獄は……無駄じゃない……」
自分に言い聞かせる。
必死になって、奮い立とうとする。
この精神性は、5000億年前の蝉原にはなかったもの。
この積み重ねた地獄が、
蝉原に、本物の執念を植え付けた。
だから、
蝉原は、
「うぐぅうっ!」
どうにか、立ち上がることができた。
修正が追い付かないほど壊れていた精神が輝きを取り戻す。
蝉原は、ソルのスマホをにらみつける。
『動画の中で、重たい体を引きずっているセン』をみつめながら、
「才能は俺の方が上だからね。……同じ時間を積み重ねれば、当然、俺の方が強い……ふふ……」
優越感を燃料にして、
蝉原は鍛錬を再開した。
――蝉原は知らない。
この段階のセンが、
全部で6つの『とんでもない縛り』を受けていること。
仮に、蝉原が、その縛りを受けた場合、指一本動かすことすら出来ないということを。
そして、蝉原は知らない。
ここからセンが5兆6000億年の時間を積んだ上で、
その積み上げたもの全部を燃料に、
200兆年の鍛錬に挑もうとしていることを、
――蝉原は知らない。
「ふふ……センくん。どうやら、君の神話は、俺が勝利を収めることで終わってしまいそうだ……けど、それはそれでリアルじゃないかな? 結局、凡人は、天才に勝てない。そういう運命だったってだけの話さ。くく」
蝉原は何も知らない。
だが、それでいい。
★
センエースの長すぎる地獄旅も、ついに『合計15兆年目』に突入した。
それを機に、センエースは、本格的にトリプル神化の練習を開始し始めた。
これまでにも、ちょくちょく、試してはいたのだが、あまりに難しすぎて、まともに扱えたことは一度もない。
ただ、流石に、15兆年の下地を経た上で、徹底的に反復練習を繰り返したことで、
「おっ……ちょっとだけ……安定してきた……か……?」
配下たちとの実践の中で、
センは、ボッコボコにされながらも、
わずかに、
けれど確かに、
自分の心身が、トリプル神化に適応し始めたのを感じた。
本来、センエースの『才能のなさ』を考えると、
15兆年程度では、なかなかコツを掴みきれない。
ダブルまでならともかく、トリプル以上になってくると、『才能』の有無が、かなり大きく関係してくる。
天賦の才を持つ者でも、億や兆という単位の時間を絶対的に必要とするエゲつない難易度の変身。
それが、トリプル神化。
そのトリプルに、センエースほど才能のない者が挑むとなると、必要となる時間はさらにグンと跳ね上がる。
それなのに、今回、センが、『センにしては比較的早い時間』でトリプルのコツを掴みかけているのは、ずっと、『6つのどでかい地獄』で己を縛り続けてきたから。
『地獄の縛り』は、それぞれの根幹に、変身システムのパッケージを抱えている。
プレイステ〇ション2とゲ〇ムボーイぐらい違うものだが、根幹の方向性は、にているものがある。
センは、超長期間にわたって、6つの地獄と向き合い続けてきた。
その積み重ねが下地となり、センエースを支えてくれている。




