29話 それでも……
5年連続毎日2話投稿前夜祭記念、
そして、コミカライズ版センエース、
「まんが王国」「コミックシーモア」「eBook japan」で配信されている記念、
一日10話投稿、
本日の2話目
29話 それでも……
センエースは、田中に対して思う。
『記憶がリセットされるの、鬼ズルくね? それ、全然、苦しくねぇじゃん。実質、20年頑張るだけじゃん。ヌルいわぁ。そんな程度の重荷しか背負っていない分際で、この俺様に、ため口きいてほしくないわぁ。きらいだわぁ。なんか、顔見るだけで殺したくなるわぁ』
躁の時も、鬱の時も、関係なく、
センエースの心は、この異常に長い時間地獄の中で、
どんどん、疲弊し、歪んで、腐っていく。
それでも、叫び続ける勇気を――
と、センは、ひたすらに己と向き合い、今日だけ頑張るという覚悟を示し続けた。
それでも、
それでも、
それでも、
それでも……
――魂が腐る。
止められない。
どんどん歪んでいく中で、
『それでも』と叫び続ける。
『叫び続けるために、叫び続けている』という、
末期も末期の状態で、ずっと、自分の意地にすがりついている。
すがりつくための握力も、そろそろ尽きてしまいそう。
すがりつくための握力が、完全に尽きてしまったら、
いったい、どうなるのかなぁ、という恐怖におびえながら、
センは、今日も、今日という日を積んでいく。
★
――センエースが頑張っている裏で、
蝉原勇吾も頑張っていた。
ソルを出し抜くために、
頑張って、頑張って、頑張って、
そして、
――ついに、折れた。
5000億年が経過したところで、
蝉原は、ついに、動けなくなった。
「はは……はははははははっ……」
『ぶっ倒れた状態で、ひたすらに笑うだけ』という、キモイ置物になる。
精神力の限界。
ソルは、すぐさま、壊れてしまった蝉原を修理する。
3000億年目までは、かるく修理するだけで『完全なる正常』に戻っていた。
しかし、それも、だんだんと、ガタがくるようになってきた。
レストアを繰り返して、無理に使い続けているバイクのように、
だんだんと、エンジンの状態が悪くなってくる。
燃え残った心のカーボンがたまって、正常な働きが難しくなる。
『交換できない重要なパーツ』が摩耗していく。
ちゃんと、適度に、オイル交換を繰り返しているのだが、
しかし、芯の部分の損傷が激しく、
いくら修理しても、完全な状態には戻らなくなった。
ソルレベルになると、『重要パーツを交換するレストア』も不可能ではないが、それは、まさしく、テセウスの船。
『重要パーツ』……いわゆる『コア』をいじってしまうと、根源的な資質に変動が起きてしまう可能性がある。
人間の細胞は三か月ですべて入れ替わるが、そういう次元ではなく、もっと中心的に、『細胞の分裂を司る設計図』から何から、完全に入れ替わってしまうので、人間性ステータスにも想定外の変動が生じる可能性が大いになる。
簡単に言えば、最重要項目である『根性SS』が低下してしまう可能性があるということ。
ほかのステータスは、多少変動が起きようと、大した問題ではないのだが、根性だけは低下した分だけ、全体のシルエットが薄くなってしまう。
――ゆえに、『修理』にも限界がある。
『これ以上は直せない』というラインがあり、
蝉原は、そのライン上でタップダンスを踊っている。
――そんなこんなで、5000億年が経過した現在、
蝉原は、
「ははははははは」
死んだ目で、ずっと笑い続ける人形になっている。




