82話 倍プッシュだ。
82話 倍プッシュだ。
「天下の防御力は半分になるように補正をかけて、お前のステータスや戦闘力も半分にカット。殺される回数を減らすんはおもろないから、残機だけは3000のままにしとこか」
「……」
「最近、こなれてきて、ヌルゲーになっとったけど、これで、またスリリングなループができるよ。やったね、センちゃん。地獄が増えるよ」
「……」
「残り、2000億年、がんばれ、センエース。ここからが、本当の地獄や」
「……」
センは、もう、何も言えなかった。
ただ、黙って、白目向いて、泡ふいて、倒れることしか出来なかった。
センエースのループは終わらない。
★
流石に、ここからは、『倍になって終わり』だと思っていたセンに、
さらなる不幸が襲い掛かってきたのは、『410億回目』のことだった。
(なんか……ちょっと、俺、弱くなってね? いや、なってるな。確実になっているな。おまえ、また、なんかしたな? 正直に言え、サイコ野郎)
動きが若干鈍くなっていることに気づいたセンが、
田中にお伺いをたてると、
田中は、笑顔で、こう返事を返した。
(ここからは、10億回ごとに、お前の存在値が徐々に減っていくから)
(……)
(安心せぇ。他のしんどさは全部一緒やから。お前の存在値だけが減る感じ。それも、数パーセントだけ。たいしたことないやろ?)
(ちなみに、490億回目の時は、合計で、どのぐらい減る感じ?)
(えっと、ラストの10億回の時は、存在値99%低下の状態でやってもらうことになるな)
(……泣いていいか?)
(もう泣いとるで)
★
回数を重ねるごとに、センエースの存在値は下がっていった。
しかし、その分だけ、戦闘力は底上げされていったように思う。
それは、決して勘違いではない。
キツい縛りであればあるほど、アリア・ギアスとして強く輝く。
おそろしく大変な道のり。
センの顔は、ずっと死んでいるが、しかし、ここまでの地獄を背負ったことで、天下の面々も、だんだんと、花開いてきた。
450億回目の段階では、全員が閃化なしでの『自力神化』を果たし、
480億回目に到るまでの道程で、半数近くが超神化への覚醒に成功した。
ここまでしっかりと育ってしまうと『天下の面々が足かせにならない』ということで、
『肩代わりダメージが、20倍から1000倍になったよ。やったね、センちゃん』
と、地獄がグイっと底上げされた。
成長して強くなるにつれて、それ以上に、『負荷』がどんどんましていく。
成長率を超越した、バランスブレイカーの鬼畜難易度設定。
普通なら、その負荷の膨れ上がり方についていけなくなるのだが、
センエースは、歯を食いしばって、最後の最後までくらいついていく。
それが出来ているのは、生まれつきの資質のせいなんかじゃない。
これまで、ずっと、『茨の階段』を一つ一つ、のぼってきたから。
積み重ねてきた『本物の質量』だけが、今のセンを支えてくれている。
★
――『最後の10億回』が、本当に地獄だった。
存在値99%カットという縛りは、やはり、頭がおかしかった。




