107話 こんな無様な方法で強くなるぐらいだったら、弱いままの方がマシだった。
107話 こんな無様な方法で強くなるぐらいだったら、弱いままの方がマシだった。
正直、センは強くなれた。
上位者からの適切で完璧なフィードバックは宝物。
センと田中、2人の闘いは、『殺しあい』などと呼ぶことはできなかった。
コーチと小学生の二人三脚みたいな感じだった。
『球は、こう握るんだよぉ』『肘が下がっているよぉ』『腰は、もっと、こうやってためようかぁ』『もっと脇しめてぇ』『ああ、違う、違う。ほんとバカだなぁ、君は』『才能がない』『一回死んで、人生やり直した方が早いかもねぇ』『はい、じゃあ、もう3億セットいってみようか』『もうちょい丹田に力を入れようか。丹田ってわかる? おへその下だよぉ。おへそってわかる? 君の知性じゃ、わかんないかぁ』
こんなレベルの『教育』を受けたセンは、
結果として、もちろん、
(……田中、死ぬべし、死ぬべし、死ぬべし、死ぬべし、死ぬべし……田中、死ぬべし、死ぬべし、死ぬべし)
田中に対する憎悪で爆発しそうになっていた。
もう、頭の中は、田中に対する怒りと憎しみで一杯。
『屈辱という名のチェーンジェイル』でがんじがらめになっている。
確かに強くなれた。
強くなれたことはよかったのだが、『こんな無様な方法で強くなるぐらいだったら、弱いままの方がマシだった』と言いたくなるほどの地獄だった。
そんなこんなで時間を重ね、
10年が経過したタイミングで、
田中は、センに、最後のトドメをさした。
死にゆく中で、センは、
「……マジで、シュブとかどうでもいい……てめぇを殺す……そのためだけに、俺は生きる……」
どうあがいても、田中に対する憎悪が膨らむ。
どうやら、センエースの人生は、デフォルトで、そうなっているらしい。
★
「……」
意識を取り戻した時、センは、自室で、ゲ〇ムボーイ片手に、
ムーア最終の作成に取り組んでいた。
「……」
眉間にグっと、シワをよせ、奥歯を軋ませながら、
「ぐぐぐ……ぎぎ……ぐぐぐ……」
腹の底から湧き上がってくる『今にも爆発しそうな憤怒』と向き合う。
感情の中の『苦しい部分』だけに包まれて、今にも発狂しそう。
いや、とっくの昔に発狂はしているのだが、その中でも、さらに濃度の高い世界に溶けてしまいそう。
「はぁ……はぁ……はぁ……うぅうう」
このはげしい羞恥と怒りは、そう簡単に鎮まりそうにない。
枯れることを知らずに沸き上がり続ける感情と向き合っていると、
そこで、
ヨグナイフが、センの目の前に顕現して、
「ボーナスタイムだ。今回獲得した経験値を割り振っていけ」
と、声をかけてきた。
センは、ヨグナイフの柄を掴むと、
「じゃかぁしぃわい、ぼげぇええええ!!」
バグった叫び声をあげながら、壁に向かって、思いっきり投げつける。
「八つ当たりとは……とても神の王とは思えない、なんともなさけない諸行だな。貴様には、命の頂点に立つ者としての自覚が足りない」
「命の頂点に立ってんのは、問答無用で、あいつだろうがぁあああ! 俺なんか、ただのゴミぃいいいい! いてもいなくてもどっちでもいいカスぅうううう!! もはや、いない方がいいまである低脳ぉおおおおおお!!」




