31話 もぉおおおおおおおお! ちっ! もぉおおおおおおおおおおおおおおお!
31話 もぉおおおおおおおお! ちっ! もぉおおおおおおおおおおおおおおお!
「……勘弁してけろ……もう、ほんと、疲れてんだ……いいかげん、休ませてやってくれ、この可哀そうな俺を……なんだか、とっても眠いんだ」
「ちょっと、ほんと、マジで意味がまったくわかんない。え、私、これ、どうしたらいいの?」
と、おろおろしながら、ガキみたいなことを口にする。
いや、まあ、高校生なのだから、もちろんガキなのだが。
『極限状態』で『自分がとるべき最善』を『独力だけで模索できる者』は少ない。
それは、ガキも大人も変わらない。
特に、平和ボケした日本では。
甘えたことをほざくナグモを、
センは、
「……どうしたらいいの、だと? はっ。知らんがな。お前がどうしようと興味ねぇ。生きようと死のうと、どっちでもいい。心底。……お前の進むべき道は、結局のところ、お前以外に決められない。てめぇの船は、てめぇの手でこいでいけ。他人にオールを任せるな」
と、全力で突き放す。
――と、そこで、
「……ん?」
奇妙な波動を感じ取ったセン。
「え、ちょっと待って……なに、この不穏な感じ……明瞭な胸騒ぎ……え、待って、待って……まさか、おかわりじゃないよね? 違うよねぇえええ?!」
と、泣きかけ……ではなく、普通にボロボロと涙を流しながら、
『勘弁してくれ』と世界に訴えかけるセン。
しかし、こんな時の世界は無情。
決して、センのワガママを聞いてくれるコンシェルジュにはなってくれない。
センが、やべぇ未来を想像していると、
そこで、ナグモの右腕が、
「きゃぁぁあっ!」
ふいに爆発して吹っ飛んだ。
この異常な状況に、
一般高校生ナグモは、
「ああああ! ああああああっ!」
と、錯乱して悲鳴をあげる事しか出来ない。
「痛い、痛い、痛いぃいいい!」
と、当然のように錯乱して喚き散らかす彼女。
そんな彼女の横で、
吹っ飛んだ右腕の破片が集まって、重なり合って、
精緻なジオメトリを形成する。
それを見たセンは、
「もぉおおおおおおおお! ちっ! もぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
と、舌打ちを挟みつつ、
全力でブーをたれながらも、
どうにかこうにか、自分の体にムチを打つ。
自力では指一本動かすことができなかったのだが、
『目の前の地獄』というムチによって、肉体が強制的に活性化される。
しんどくて、辛くて、苦しくて、たまらないのだが、
しかし、それでも、センは立ち上がる。
そんなセンの視界の中で、腕が吹っ飛んだナグモは、
「ああああああ! 痛いぃいいいいいいいい! ああああああ!」
と、のたうちまわりながら、叫び続けている。
いきなり腕が吹っ飛んだのだから、当然と言えば当然の反応なのだが、しかし、鬼のセンは、
「ちょっ、うるせぇ……腕一本でガタガタわめくな……こっちは、何度も両手両足吹っ飛んで、内臓も頭も、幾度となく爆散して、それでも、たいして文句も言わず、歯ぁ食いしばって生きてんだぞ。そんだけ苦しい想いをして、それでも世界を守ってきた、そんな俺の栄誉をたたえ、拍手喝采をおくってこい。片腕だから拍手できないって? 心配すんな。心が正しい形をなせば、両腕なくとも、拍手の音は世界に鳴り響く」




