20話 邪魔だな、これ。
20話 邪魔だな、これ。
「――あるいは、『世界を飲み干さんばかりの闇』になるやも。くくく……面白い。もしかしたら、この私すら、飲み込まれてしまうかもしれんが、しかし、それはそれで面白いやもしれん。ハイエンドの狂気をふりまいてくれるのであれば、媒体は何でも構わない」
そう言いながらも、一応、センを圧殺しようとする、壊れたナグモ。壊れるなら壊れるでも構わない、という視点のもと、とにかく全力で、センエースの死を追い求める。
一応、本気で壊すつもりで暴力をふるっている、壊れたナグモ。
しかし、いくらボコボコにされても、
センの中心は、まったく砕ける様子がない。
そんなフルボッコの途中で、センは、
「確かに、ダメージを受けるたびに何かが鈍っている気がする……邪魔だな、これ……」
『自分の中にある器』に、見切りをつける。
『絶対的主人公補正』は、希望の象徴。
つまりは、
『理想』の『押し付け』である。
『一等賞な聖人君子』だけの勲章。
『優等生な理想論』が夢見る栄光。
「これじゃダメだ……いずれ、腐る……俺が欲しいのは、こんなんじゃねぇ」
栄光や勲章はいらない。
喝采も賛美も必要ない。
――センエースの『望み』は、
流石にそこまで安っぽくない。
友情パワー?
過保護な献身?
奇跡?
あったけぇ絆?
気持ちが悪い!
いらねぇんだよ、そんなもん!
チームワーク、
結束の力、
みんなは一人のために、
一人はみんなのために、
一致団結。
仲間意識。
全部クソ!
高潔?
尊さ?
いらん、いらん、いらん、いらん、いらぁん!
ずっと言ってんだろ、そんなんじゃねぇって!
謙遜してんじゃなくて、マジで、違うんだよ!
『俺が欲している物』は、そうじゃねぇんだ!
「俺がほしいものは、もっとこう……なんというか、アレだ……ほら、わかるだろ? 分かれ。分からないなんて言わさない。これは『言語化できない俺』ではなく、『汲み取れないそっち』が悪い。俺は悪くない」
と、『世界の根源』に対して『無茶なパワハラ』を決め込んでいくセンエース。
どんな時でも変わらない。
なにを得ても成長しない。
――それがセンエースクオリティ。
「別に主役じゃなくてもいいだろ。『どこにでもいるモブ』だっていいんだ……凡人だろうと、村人だろうと……それでも、勇気を叫び続けることができるのであれば、そいつはたぶん、何かを成せる。主人公補正だなんて、くだらない言葉で俺の底をくくろうとするなよ。俺が積み重ねてきたものは、そんなお飾りじゃねぇ。『背景に溶け込んでいる脇役』でありながら、『最初から決まっている運命とやら』に、渾身のジャーマンを決め込む。その覚悟を示し続けることだけが、俺のプライドだ」
パワハラとワガママが、センエースの真骨頂。
無理難題の無理問答で世界の根底に圧迫面接。
底辺の平社員でありながら、会長にパワハラ圧迫をかましていけるだけの胆力こそ、センエースが誇る最上の輝き。
「……主役じゃなくたって、運命じゃなくたって、叫び続けるんだよ。世界で一番みっともない底意地を。その先に待っている何かを掴むために、俺は、とびっきりの今日を積む」
グググググ、グンッッ!!
と、えげつないほど重たい圧力がのしかかる。
世界に?
センに?
わからない。
わかるはずもない。
何がなんだかわからないままに、
『ソレ』は、起こった。
覚醒と呼ぶには、あまりにもみすぼらしい変化。
あえて、
『壊れ堕ちた』と呼びたくなるほどの、
禍々しい変貌。




