17話 金のある人生、さいこぉ!
17話 金のある人生、さいこぉ!
「てめぇの言っていることは、何も間違ってねぇ。化け物のくせに、人間のことをよぉく理解している。人間ってのは、文字通り、現金なもの……特に欲望丸出しの男は分かりやすくてなぁ。でかい家! いい車! うまい酒! それら全部、金さえあれば手に入る! 極上の女も、金さえあれば手に入る! 俺みたいな『男としての偏差値が平均を切っているようなカス』でも、金さえあれば、何でも思うがままだ! すばらしいねぇ! 自由主義、万歳!」
好き放題の発言をかましてから、
「……ぜんぶ、お前の言う通りだ、バケモノ。俺は、ナグモが資産家の娘であることに賭けている。ナグモって名前は、どこか高貴っぽい感じがしなくもないだろ? ありあまるほどの金が家にある可能性は、名字が田中や佐藤や鈴木のやつよりは高そうだ。……というわけで、俺は、ナグモを守りきり、その報酬として、ナグモの親に、大金を要求する。そして得た大金で、俺は、億ションとベンツとフェラーリとレクサスを買って、ダイヤ付きの腕時計を両腕に三つずつまいて、毎日、札束風呂につかりながら、一本1000万以上のワインをあけるのさ。そして、毎晩、キャバクラでフルーツ盛りとシャンパンタワーを頼んでやる! 最高の人生じゃないか! 心躍るし、アンコール沸かすぜ! はっはぁ!」
「……ナグモナオのメモリを探ってみたが……両親どちらも地方公務員。貧乏ではないが、貯蓄はあんまりないらしいぞ」
「マジかよ……ハズレだな」
これみよがしのタメ息をついてから、
「……だったら、無理にでも金をつくってもらおうか。若い女なら、いくらでも金を稼げる。風俗に沈めて、死ぬまで搾り取ってやらぁ! 大変な人生になるだろうけど、ここで死ぬよりはマシだろぉ?! もしかしたら、ここで死んでおいた方が楽だったかもしれねぇけどなぁ! ひゃははは!」
「……なかなか最低な思想をお持ちのようで……」
「ああ、そうだよ。俺は、どこにでもいる最低の凡人だ。自分の欲望のために無茶をする。それだけの、どこにでもいる、うすっぺらい、平均的男子高校生だ!」
そう叫び、センは飛び出した。
色違いナグモにとどめをさそうと沸騰。
握りしめた拳で、最後の削りを入れていく。
もう、『まもる』を連打する時期は終わった。
『でんこうせっか』と『たいあたり』でフィニッシュをいれにいく。
そんな、とどめのターンに入ったセンに、
色違いナグモは。
「ぐぅう……っ……どらぁああ!」
と、渾身の力で拳を叩き込む。
けれど、センは――どれだけ拳を入れても、無限に立ち向かってきた。
もはや、色違いナグモの中では、恐怖を通り越した感情が芽生えていた。
「なんで、死なないんだよ! 壊れろ、壊れろ、壊れろよぉお、頼むからぁあああ!」
――それが、引き金となった。
色違いナグモの中で膨らんだ感情が、
色違いナグモの限界を超えて、パリィンっと、何かが砕け散る。
「あ……ぁが……」
フラつきながら、ヨロめきながら、
色違いナグモは、
「……こわ……れる……いやだ……それは……いやだ……それは……違う……」
否定し、拒絶しても、
しかし、結果は変わらない。
色違いナグモの肉体が、
ビキビキと音をたてて変形していく。
そして、5秒が経過したところで、
――『元の形状を無視したスタイル』に変貌していた。
その様は、まるで、究極の邪神。
これまでの色違いナグモは死んで、
新しい、色違いナグモが誕生した。




