14話 平常運転の異常者。
14話 平常運転の異常者。
「なんで避けられるぅううう! どうなっているんだ、貴様ぁああ!」
色違いナグモからすれば、センエースと言う存在は、怪奇現象以外の何物でもなかった。
常識が一切通じない。一般人視点でのオバケのような存在。
ゆえに、純粋無垢な恐怖心が、色違いナグモの中で膨れ上がる。
「お前はもう死んでいる! なのに、なぜ、生きている?! いや、生きているのも、そうだが、攻撃力も回避力も、どういうことだ!」
「元気があれば……なんでもできる……いくぞ……1・2・3……閃拳っ!」
「ぶげほぉおおっ!!」
まっすぐにぶん殴られて吹っ飛ぶ色違いナグモ。
その時に手放してしまったセンの心臓。
センは、その『地面に堕ちた、自分の心臓』を救い上げると、
「ああ……確かに……これは、酷いな……」
自分の醜い心臓を見つめながら、
「はぁ……キモいなぁ……戻したくないなぁ……けど、戻さないと死ぬからなぁ……はぁ……」
と、一度、深いため息をついてから、
自分の胸部へと、その心臓をおさめた。
元の位置に戻った心臓は、センの体内で、グニグニと、うごめいてから、
触手でも伸ばすみたいに、動脈静脈神経を再接続させていく。
「うぷっ……ぶへっ! がはっ……ぷはぁ……よし、もう、これで大丈夫。安心、安心」
数秒で完治する心臓。
あまりにもグロテスクな光景。
そんな気色悪い光景の生みの親、センエースさんは、
口元の血を拭いながら、
「さて……それじゃあ、ケンカを再開しようか……俺は真に男女平等だから、『女は殴らん』とか、そんな鬱陶しい鎖に縛られたりはしない。俺を殺そうとしてきた奴が相手なら、女だろうが、子供だろうが、老人だろうが関係ない。シバきまわして、ドツきまわして、最後には骨も残さない。そんな俺こそが真のフェミニスト。そうだろう?」
「……異常者がぁ……」
そうつぶやきながら、
色違いナグモは、オーラと魔力を、ぐつぐつと沸騰させて、
「貴様のせいか……貴様という、気持ちの悪い害悪のせいで、私のエルメスは穢れたのか……許せない……許さなぁああああい!」
「最初から一貫して、ちょっと何言ってんのか分かんねぇが……とりあえず、死ねや」
そう言いながら、
センは、迫ってくる色違いナグモの拳をスルっと回避して、
カウンターとして、
握りしめた拳を、色違いナグモの顔面に叩き込んだ。
センの拳は、ガッツリと入ったのだが、
「心臓を戻した方が、出力が低下するって、どういうことだぁあああああ!!」
センの拳は、まったく通じなかった。
そのまま、カウンターのカウンターをくらうセン。
ガツンと殴られて吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ先で、センは、
殴られた箇所をさすりながら、
「どうやら、俺の心臓は、『俺を抑えつける呪い』みたいなもんらしい……勘弁してほしいぜ……ないと死ぬが、あったらしんどい……もう、ほんと、色々勘弁してほしい……」
などと、ゴチャゴチャ言っているセン。
そんな彼の右手には、たゆたう魂が一つ。
それを見た色違いナグモは、
「……っ?! 貴様ぁ! 私から『ナグモのカケラ』をスったなぁあああ!!」
「先に盗んだのはてめぇだろ。取り戻しただけだ」
そう言い切ってから、センは、己の、穴のあいている胸部に、彼女のカケラをしまいこむ。




