9話 100歩進んで1000歩下がる。
9話 100歩進んで1000歩下がる。
「天才に対する激しい嫉妬は、俺の底力を加速させてくれる。死んだぜ、お前。俺の前で天才を名乗ってしまったことを後悔するがいい」
そう宣言すると同時、
足腰にかけるエネルギー量を莫大化させる。
踏み込み足に心を込めて、
右手に握った出刃包丁をきらめかせる。
「奪われてしまったのはウゼェがぁああああああ! でも、だったら、もう一度、最初から磨くだけぇええええええええええ!」
奪われることにも慣れてしまった者の叫び。
必死に積み上げて、それを、アッサリと奪い取られて、
――そんなことを繰り返してきた。
だから叫べる勇気がある。
「魂魄一閃っっ!!」
夢の中の記憶を頼りに、自分の肉体を躍動させるセン。
イメージだけは十二分。
けれど、まったく、思った通りに動いてくれない体。
「ギャギャギャッッ!」
天才型グールにとって、センは、『クソザコのトーシロ』でしかない。
もともと、グールは、人間よりも高い身体能力を持つ。
耐久性も俊敏性も、人間と大差ないのは事実だが、
一応、人間よりも明確に上という設定のモンスター。
そんな『人間よりも高い身体能力を持つ種族』の天才型。
それが、今、センの前に立つ色違いグール。
だから、今のセンの特攻など、余裕で処理できる。
センの『魂魄一閃もどき』を、サっと『余裕の表情』で回避した天才型グールは、
そのままの流れの中で、
ポンポンポーンッ!
と、クリティカルな連打を、センの顔面と腹部に叩き込む。
「ぶげぇええっ、がへぇええっ、ぶぁあああああああああっ!」
天才型グールの身体能力は、ボクシングヘビー級チャンピオンクラス。
凡人など秒殺できるだけの強さを誇る。
数発で血だらけになったセンは、
フラフラしながら、
「……ぐ、グールの珍種ごときに、ボッコボコにされてよぉ……なにが神の王だよ……笑わせんな……」
自嘲するセン。
とにかく、普通に情けなかったが、
しかし、そんな己の無様に浸っているほど余裕はない。
センは、出刃包丁を握りなおして、
グっと顎をあげる。
そして、殺意満点の目でグールをにらみつけた。
「最近、ずっともう、ボコボコにしかされてねぇよ……ふざけやがって……」
怒りをパワーにかえようと、必死になって、丹田へエネルギーを注いでいく。
「いや、よくよく考えてみると、最近だけじゃねぇか……夢の中でも、ずっと、ボコボコにされてきた……何年も、何十年も、何万年も、何億年も……ずっと、ずっと、ずっと……」
でも、だからこそ、命の動かし方が理解できている。
知っているのだ。
絶望も苦悩も辛酸も悲痛も、
全部全部全部全部全部全部、
誰よりも味わってきたから、
――だから、わかっている。
夢の中で、散々、繰り返してきた地獄の記憶。
こびりついて離れない。
たとえ、他の何を奪われようと、
この『心身に刻み込まれた傷痕』だけはなくさない。
「100歩進んで1000歩下がる……ほんと、マジで、ずっと、賽の河原……」
ふぅううっと、そこで、深く息を吐いて、吸って、
「それでも……なくさなかったもん全部をかきあつめて……」
ギリっと、己自身の中にある全部を引き締めると、
とことんまで絞り上げた目線でグールを睨みつけ、
「……てめぇを殺す」
宣言と同時にダッシュ。
思考の介在する余地がない速攻。
とにもかくにも全力で特攻するセン。
その神風に対し、
グールは、冷静に拳をあわせた。
見事なタイミングの右ストレート。
テクニカルなカウンター。
センの運動エネルギーを利用して、自身はほとんどエネルギーを使わない。
そんな、技巧派な省エネムーブに対しセンは、
「そんな、お行儀のいい攻撃で、俺を処理できると本気で思ったか?」
センが求めたのは、とことんまでつきつめた自爆特攻。
肉をみじん切りにさせてでも、絶対に骨を両断してやるという覚悟。
まだ、だいぶはやいですが、
次の「章」の予告をしておきます!
現在進行中の「究極超神Ⅾ章 善。」
――その「次の章」で、
これまでに張り巡らされた「多くの伏線」が回収されて、
「運命を調律した終局」へと向かう……
そんな気がします(^o^)/




