8話 地獄以上の恐怖を見せてやると誓うセンエース。
8話 地獄以上の恐怖を見せてやると誓うセンエース。
色違いグールは、間違いなく、普通のグールよりも高性能だった。
それは、確かに事実なのだが、しかし、とはいえ、さすがに、『グレートオールドワンに一発かますことができるほどの一撃』を華麗にサバけるほどの実力ではない。
「……もしかしてだけど……俺の力……合体解除の際、田中に取られた?」
正直、なんとなく、そんな気はしていた。
田中との合体が解除された際に、自分の中から、何かが抜け落ちたような気はしていた。
信じたくなかったので、『まさか、そんなわけがない』と、これまでは『見て見ぬふり』をしてきたが、しかし、この状況になってしまえば、さすがに、シカトを貫くわけにもいかない。
「田中の急激な成長は、『極限状態で積んだ俺の経験値』を奪い取ったから……そう考えると合点がいく。ぁ、あの野郎、どこまで俺をコケにすれば気がすむんだ……『持たざる者の代表』と言っても過言ではない、ひたすら可哀そうな俺から、数少ない所有物である『努力の結晶』まで奪い取っていくとは……し、信じられねぇ……あの鬼畜野郎……絶対に殺してやる……俺はあいつに、必ず、地獄以上の恐怖を見せてやると誓う……っ」
などとゴチャゴチャつぶやいている間に、
色違いグールが、俊敏なムーブをみせた。
空間を駆け抜ける壁蹴り。
色違いグールは、センを見ていなかった。
グールの目的はナグモナオ。
「ギャギャギャァ!」
と、奇声をあげながら、
センをシカトして、ナグモに襲い掛かる。
その潔い態度に対し、センが、こめかみに、怒りマークを浮かべながら、
「俺がまだ元気いっぱいなのに、俺の後ろにいるやつを殺そうって?! 笑かすじゃねぇえかぁああ!! 褒美をやろう! くらえぇええええ!」
と叫びながら、ナグモに襲い掛かろうとするグールの横っ腹に飛び蹴りをかましていくセン。
極限状態で、少しだけリミッターが外れた様子のセン。
普通、リミッターなんてものは、そう簡単に外せない。
だが、『弱い命』を前にした時のセンのリミッターは、
とんでもなくガバガバの状態になってしまうのである。
そんなセンの動きに反応しきれなかった色違いグール。
吹っ飛ばされて黒板に体をうちつけたグールは、しかし、ダメージはほとんどないようで、すぐさま体勢を立て直すと、
キッと、センをにらみつけて、
「……ただのゴミかと思ったら……最低限は動けるようだな……」
「キェェェェェアァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!」
と、一応、マナーとして、テンプレをぶちこんでから、
直後、センは、カラっと態度を一変させて、
「……普通にしゃべれんのかよ。奇声が激しめだったから、『知性を代償としてステータスを上げるアリア・ギアス』でも決め込んでのかと思っていたんだが」
「私は純粋な天才型のグールだ」
『奇声しかあげられない』というわけではなく、
普通に、戦闘中には奇声を上げるタイプだった、
――どうやら、それだけの話らしい。
センは、ググっと腰を落として、
出刃包丁を構えなおすと、
「天才か……うらやましいねぇ……俺も、そのタイプで産まれたかったよ。俺は、基本、『五体満足で産んでくれたことを、親にバキバキ感謝している殊勝系男子』なんだが……『できれば、凡人ではなく、天才で産んで欲しかった、という悲痛を拭いきれない、ないものねだりの贅沢系男子』でもあるのだ」
などと、ファントムトークで、いったん、間をとってから、
「天才に対する激しい嫉妬は、俺の底力を加速させてくれる。死んだぜ、お前。俺の前で天才を名乗ってしまったことを後悔するがいい」




