表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/5863

35話 止めるなよ? 絶対に止めるなよ?

 35話 



「……カースソルジャァァ……あの野郎ぉおお……」


 うめくように、勇者はそう呟いた。




「やりやがったな、くそったれがぁ……どこまで、俺を怒らせれば……」




「ぁ、あの……」


 震えているスラムのガキ。


 汚らしいが、妙に整ったツラ。

 肩までのプラチナブロンド。


 すべてが忌々しい。


「わたし……こわいひとに……追われてて」



「知るか、黙れ、死ね。聖殺、ランク5!」



 ほとんど反射的に、範囲を小さく絞った聖光魔法を使おうとしたが、



「っっ……ま、マジで……発動、しねぇ……ウソだろ……」



 勇者は、折れるほど、奥歯をかみしめて、


「反転、ランク5! 治癒、ランク3!!」


 回復でダメージを負ってしまう魔法をガキにかけ、治癒の魔法で殺そうとした。

 抜け道はないかと考えての一手。

 だが、


「ぐぬぅ……クゥソぉがぁ……」


 勇者は、ワナワナ震えながら、


「考えろ……考えろ……何か、何か、何か……よ、ようするに、俺への悪意さえあればいいんだろ? よし」


 そこで、勇者は、ガキを睨みつけ、


「おい、そこの薄汚いガキ、見事なほどのクソっぷりだな。親の顔が見てぇ」




「おとうさんもおかあさんも……殺されちゃって……」




「ちっ……ああ、そう」

 そこで、勇者は頭をひねり、

「っ……まあ、だろうな。クソみたいな人間は、当然のように死ぬ。つまり、てめぇの親はクソだったってことだ」




「……そう、かも……わたし……いっぱい、殴られたから……いっぱい、いっぱい、痛かったから……いらない子だって……邪魔だって……うぅ……ふぇ……」




「ぁあ……ウゼェ……この上なくウゼェ……」


 相手を怒らせることにかけては右に出る者はいないと自負していたが、そのプライドが崩れ去りそうだった。


 勇者は考える。

 どうすれば、このガキの悪意を自分に向けられるか。


「おぃ、ガキ。てめぇの大事にしているものはなんだ?」


「大事なモノ?」


「ああ、そうだ。これだけはなくしたくないってもんだ。教えろ」


「………………ない」


「あん? ないってこたぁねぇだろ。じゃあ、なんで、てめぇは生きてんだ?」


「い、生きなさいって……それでも生きてほしいって……おねえちゃんに……いわれたから……」


 そこで、勇者は、パァンと手を叩いて、


「はい、いただきましたぁ!」


 勇者は、ドス黒い笑顔を浮かべ、ガキの顔を覗きこみ、


「俺は、お前の姉を軽蔑するね。心底から汚物だと思う。虫以下のクソカス。そんなクソカスが生きているのは我慢できねぇ。これから、そいつを、殺しにいこうか。ああ、そうしよう。とめんなよ、ガキ。わかったか。とめるなよ? 絶対にとめるなよ? この俺様の一歩を邪魔しようなんて――」




「おねえちゃんも……死んじゃったの……」




「……つ、つかえねぇ……」


「わたしのために……しょうふっていう所で……いっぱい……いっぱい、イヤな目にあったのに……それでも……がんばって……がんばって……なのに……なんで……」






「………………………」






 そこで、勇者の表情が死んだ。

 スっと、フラットになる。


 怒りが死んで、その奥にある『響き』が這いあがってくる。


 勇者は、ガキの目をジっと見て、



   ――真摯に――



「だから、『死ね』っつってんじゃねぇか」


 もう、怒らせようとは思っていなかった。

 そんなことは忘れていた。






 だから、

 これは、

 ただの、

 単純な、


 ――いつもの、本音。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作コミカライズ版35話公開中!ここから飛べます。 『センエース日本編』 また「センエースwiki」というサイトが公開されております。 そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。 「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*) センエースの熱心な読者様である燕さんが描いてくれた漫画『ゼノ・セレナーデ』はこっちから
― 新着の感想 ―
[一言] まあ「カース」ソルジャーだから呪いを使えると思うのもわかる
[良い点] おいおい、 助けた孤児が幼女でハーレムの一員になるのはなろう主人公の特権だぞw まさか大量殺人器並みに性格の悪い悪役に、 幼女ヒロインが付くとは、これは意表突かれすぎ あ、でもとある科学の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ