79話 カンツについていこう。
79話 カンツについていこう。
――翌日は、『選抜大会』がつつがなく開催された。
好成績を収めると、『神話生物研究会』に入れる権利を得られるという、夢の大会。
神話生物研究会は、基本的に『スカウト制』で、『入部希望』を出しても通らない。
『異常な才覚が認められ、入学と同時に入会』という形以外で、神話生物研究会に入る方法は、唯一、選抜大会で際立った資質を魅せつけること。
この選抜大会は『年一』で行われており、だいたい、5~6年に一人ぐらいの割合で、『神話生物研究会に編入する者』が現れる。
……ただ、今年の『一般人枠』の中に、『こいつは、神話生物研究会にいけるかも』と思えるような逸材は存在しなかったため、今回の選抜大会は、いつもの体育と同じで、ただただ、特待生たちの異常性を魅せつけられるだけだろう――と、何も知らない一般学生たちは思っていた。
そもそも、一回戦の内容が、あまりに狂っていた。
初戦の内容は『カンツについていこう。鉄人マラソン大会』。
特待生の中でも、体力という分野において、飛びぬけた異常性を有する超人カンツ・ソーヨーシについていける者など、特待生の中にも存在しない。
今年の選抜大会は、初手でカンツにぶっちぎられて、全員終了だろう――と、多くの一般人が思っていた。
もちろん、必死になって対抗しようと考えている者もいる。
時空桐作学園には、『神話生物研究会編入選抜大会、対策委員会』というヤベぇクラブも存在する。
『神話生物研究会編入選抜大会、対策委員会』が測定する今年の選抜大会の難易度は、文句なしのSSS級。
これ以上ない、地獄の難易度。
しかし、それでも、『神話生物研究会編入選抜大会、対策委員会』の面々は諦めない。
最初から、無謀な道に挑戦していることは理解している。
だから、彼・彼女らは全力で作戦をたてた。
今年の初戦がマラソン大会になるであろうことは、独自の情報ルートで入手していたため、かなり前段階から、長距離走の特訓を積んだ。
毎日、10キロ以上走りこんで、体力をつけることは当然。
その上で、各メンバーが、交互で風よけの壁になっていくという作戦をたてた。
向かい風の収束点を計算しつつ、完璧なバランスのフォーメーションを組んだ。
マラソン開始直前、
『神話生物研究会編入選抜大会、対策委員会』の面々は円陣を組んで、
「絶対にプラチナチケットを手に入れる! 俺たちは、全員で上に上がるんだ!」
「「「「「うぉおおおおおお!」」」」」
と、別格の気合いを心に注入。
周囲の冷めた学生たちは、
『無駄な努力を、ごくろうさん』と笑っていたが、
しかし、選抜大会対策委員会の面々にとって、そんな嘲笑は、なんら向かい風たりえない。
笑いたければ笑えばいい。
狂人は、だいたい、同じ結論に至る。
そうこうしているうちに、『カンツについていこう、鉄人マラソン大会』がはじまった。
『神話生物研究会編入選抜大会、対策委員会』の面々は、作戦通り、お互いを風よけにしながら、なるべく体力を温存する形で、カンツについていく。
努力は裏切らない。
そう信じて、彼・彼女らは必死に走った。




